Silver Sword

□第3章
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『それでは最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ』

 その茅場の言葉を聞き、プレイヤーがそれぞれ右手の指に本を揃えて真下に向けて振った。ギンとシンもお互いの顔を見合わせてからそれぞれメインメニュー・ウィンドウを出した。

 アイテム欄に入っていたのは≪手鏡≫。オブジェクト化のボタンを押すと、きらきらという効果音と共に小さな白い鏡が出現した。

「鏡?何だこれ」

 ギンが訝しげに問うと、シンがさぁ?と言って鏡を覗き込む。ギンも同じように覗き込んだ。

 鏡には、もちろん今の自分―――銀髪のサラサラヘアーと紅い眼という、銀時のあこがれ?的な容貌を持った“ギン”の姿が映る。

 すると突然、ギンは白い光に呑み込まれた。……いや、ギンだけでなくシンも、他のプレイヤーたちも同様だった。

 二、三秒で光は消えた。―――――が、目の前の風景は元通りではなかった。

「晋助!?」

「銀時!?」

 2人は互いの顔を見て、思わず本当の名を呼び、そしてもう一度鏡を見た。そこに映っていたのは――――――――――


「うぁ〜!!!俺のサラサラヘアーがぁー!!!何してくれてんだ、コノヤロー!」

「そこ怒るところかよ」

 ギンは白銀の髪と赤い瞳は同じ。変わったのは髪がストレートではなく天然パーマのクルクルになった事。

 シンは少し紫がかった黒髪の色と翡翠色の瞳は変わらない。しかし長かった髪は肩につくくらいの長さになっていた。

 ……それは、現実世界での2人の姿だった。

 周りを見ると、男女比や平均身長がかなり変化していた。プレイヤー全員がゼロから創り出したアバターから現実の姿に変化していた。

「テメェも身長縮んでんぞ!」

 むーっとした表情でギンがそう指摘すれば、シンは慌てた様にギンと並び、さっきまでほぼ同じ(むしろギンより高かった?)身長が、5センチほど縮み、確実にギンより低くなっていた。

 ガクッと項垂れるシン。……しかし、すぐにガバッと立ち上がると、

「おいギン。奴を殺りに行くぞ」

 と妙に殺気立ってそう言った。

「って、そうじゃねェだろうが!」

「俺の身長を…………!あいつ、ぶっ殺す!」

「ちょい待てェェェッ!!」

 ギンがシンを羽交い絞めにしていると、茅場の声が再び響き出す。

『諸君は今、なぜ?と思っているだろう。何故私は――――SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか?と』

「あぁ、思ってるよ!何でこんなことしたんだ!何でこんな――



――俺を小さく生んだんだァァァァァァァァァ!」



「それ茅場晶彦の所為じゃ無くねェェェェェェ!?」


 茅場のアナウンスにもギャーッと騒ぎ立てるシンに、ギンは(コイツもう末期だ…。俺の手には負えねェ…)と思ったとか思わなかったとか…。

 そんな2人を放って(まぁ当然だが)、茅場は続ける。

『私の目的は大規模なテロでも、身代金目的の誘拐でもない。それどころか、今の私は、既に一切の目的も、理由も持たない。何故なら……この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、観賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』

 それを聞いているうちに、シンも落ち着いてきてギンと並んで茅場のアナウンスを聞いていた。

『以上で≪ソードアート・オンライン≫正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の――健闘を祈る』

 最後の一言が、わずかな残響を引き、消えた。

 深紅の巨大なローブ姿が音もなく上昇し、フードの先端から空を埋めるシステムメッセージに溶け込むように同化していく。

 肩が、胸が、そして両手と足が血色の水面に沈み、最後にひとつだけ波紋が広がった。直後、天空一面に広がっていたメッセージも唐突に消滅した。そして漸く、プレイヤーたちが然るべき反応を見せた。


 悲鳴。怒号。絶叫。罵声。懇願。咆哮。


 頭を抱えてうずくまり、両手を突き上げ、抱き合い、あるいは罵り合った。

「ギン…」

「あぁ、分かってる」

 シンの小声での呼びかけに、ギンは小さく頷いた。

 2人の視界の端には、ここから去って行く数人のプレイヤーが映っていた。

「俺達も早くここから動いた方が良いかもな。多分アイツら、ベータテスター達だろ」

 ギンの言葉に、今度はシンの方が頷いた。

「あぁ。…もしさっきのが本当なら、俺達は強くならなきゃならねェ」

「だな。行こうぜ、シン!」

「当たり前だ!」

 そして2人も≪はじまりの街≫を飛び出した。







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