銀色×僕SS

□第八話
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「銀に口止めされてるから言わねェ。だから、銀に直接聞け。そんで謝ってこい」

「君……」

「テメェみたいにうじうじしてる奴見てるとムカつくんだよ」

 意外と気にしてくれたのか、と感心する。

「……陽雷、優しい」

 晋助は鼻で笑う。

「勘違いすんな。銀が悲しむとこ見たくねェだけだ。今度銀悲しませたりしたら承知しねェからな」

 そう言って晋助は再び席に戻っていった。

 ちょうど授業開始のチャイムが鳴る。皆が席に座り、先生が教室に入ってくる。

 いつもの光景。

いつもの授業。

何も変わらない、平和な時。

 だがそれは一般的に、だ。

数人の心の中は穏やかではなく、それぞれの気持ちを持っていた。

悲しみ、怒り、嬉しい、いろんな気持ちがクチャぐちゃに混ざり合う。

 凜々蝶は授業に集中することができなかった。

 その様子を晋助はじっと見ていた。

















 時は変わり放課後。


「お疲れ様でした、凜々蝶様。どうぞ」

 双熾がいつものように車で迎えに来た。

凜々蝶はありがとう、とだけ言って乗り込んだ。

 それだけなのに、双熾は凜々蝶の異変に気付いた。

「……凜々蝶様、何か学校でありましたか?」

 凜々蝶は少し驚いたが、「本当に君は良く見ているな」と言って少し笑った。

「……御狐神君」

「はい、なんでしょう」

 双熾はエンジンをかけ、車を走らせた。

「君は、銀と会ったことが「やはり天狼聖さんの事でしたか」!?な、なんで……?」

「僕は以前、天狼聖さんと一緒にいたことがあるのですが」

「それは渡狸君から聞いた」

 双熾は「そうですか」と言って、話を続けた。

「天狼聖さんはとても心がお優しい方で、いつも気を使ってくださいました」

「ふんっ。銀は誰にでも優しく良い人だ、とでも言っておこうか」

 双熾は「そうですね」と言った。

「そして表情を変えずに、ずっと笑っていました」

「ポーカーフェイスが凄い、とでも言っておこう」

 双熾は凜々蝶をバックミラーで見ながら少し心配そうにしながら話を続けた。

「ですが、表情を変える時が二つほどありました」

 凜々蝶が少し驚く。

銀が表情を変える事など滅多にない。

というか表情が全く読めないのだ。

その銀が分かりやすい反応をするものか、と。

「一つは凜々蝶様、貴女の事を話している時です」

「僕の?」

 凜々蝶は「皆そのことを言うな……」と思う。

「はい。大変嬉しそうに話していらっしゃいましたよ」

 嫌われたと思っていた人が自分の事を嬉しそうに話すとはどういう事だろうか?

あれだけ酷い事をされておきながら、まだ自分の事を嫌ってないのだろうか?

「話を聞いている限り、とても仲が良かったようにお見受けします」

「姉妹のようだ、と言われたことがある」

「そうですか。とても仲がよろしかったのですね」

 双熾は「凜々蝶様」と言う。

「凜々蝶様はこのままで良いのですか?」

「……どうしようもないだろう。僕が悪いんだから」

「何があったのかは存じませんが、もう一度天狼聖さんと話し合われてはどうですか?」

 凜々蝶は「でも」というが、双熾は優しく笑った。

「大丈夫です。凜々蝶様。凜々蝶様が『仲直りしたい』と思うのならば、きっとできるはずです。凜々蝶様が全て悪いわけではありません。それに天狼聖さんが凜々蝶様の事を嫌っている様子もないので、きっと仲直りできるはずです」

 凜々蝶は少し考えた後、よし、と言った。

「明日、話して、みる」

 凜々蝶は決意した。

「そうですか。凜々蝶様ならきっと大丈夫ですよ。きっと」

 双熾の言葉に、凜々蝶はなんだか心が落ち着いた。

 だが、次の双熾で凜々蝶は固まる。














「これから一緒に住むのですから、機会はいつでもありますしね」






「……は?君は何を言ってるんだ?」


 双熾は軽く首を傾げる。

「聞いていないのですか?夏目さんが言っていた新しく来る5号室の住人は天狼聖さん、そしてそのSSは陽雷さんですよ?」

 凜々蝶は驚きすぎて完全に固まった。

 心の準備などできていない。

いきなり一緒に住む?

これは双熾の冗談か?

 凜々蝶は戸惑う。

「着きましたよ、凜々蝶様」

 そう言って双熾が車のドアを開けてくれる。

そして門の所に見た事のあるトラックが……。

「あ、それも運んでもらえますか?」

『はい、分かりました!』

「ありがとうございます」

 そのトラックとは、勿論引っ越しや。

そしてその依頼人は誰もが振り返るほどの綺麗な銀髪を持った少女。

「あれー、双熾と凜々蝶じゃん」

「あ、ほんとだ。これからよろしくねー」





 連勝と一緒にいた銀だった。




「(う、嘘じゃなかったんだ……)」


 凜々蝶は数秒の間、双熾が話しかけるまで立ったまま固まっていたという。






第八話 完





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