気づいた時には……
□九話 心の内
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そこで銀時は考えるのを止めて、湯船から出た。
これ以上湯船につかっていたら、あの悲しみが、憎しみが、また込み上げて来て、鬼になってしまいそうだったから。
幼馴染が、お登勢が、たまが、日輪が信じてくれる。
帰って来いと言ってくれる人がいる。
それで良いじゃないか。
銀時は無理やりそう自分で決めつけて、さっきまでの感情を胸の奥にしまいこんだ。
いつまた己の中に眠っている鬼が寝覚めるか分からない。
未だに殺したいと、憎い人間の血が見たいと何処か思っている。
そんな事はしたくない。
今まで人を斬って来たのは自分の感情が抑えきれなかったときだ。
そのため今回、神楽や隊士数名に傷を負わしてしまった。
実はと言うとあまりあの時の事は覚えていない。
自分が鬼なのだ。
そう思った瞬間、意識が朦朧(もうろう)としていた。
だが少しだけ覚えていた。
神楽がまず襲いかかって来て、銀時は木刀で腹を殴った。
そして神楽が吹っ飛び、すると沖田や新八、妙が自分を睨んだ。
そして悲しみが込み上げて来て……。
あの時はただ殺す事しか考えていなかった。
あの護ろうとしたものをこの手で殺そうとした。
ただ相手が死んでしまえば良いと思った。
意識が戻ってみると神楽や山崎などの隊士数名がぐったりと倒れていた。
新八達が少し傷を負いながらも自分に殺気をもの凄く飛ばしていた。
皆自分を睨んでいた。
憎んでいた。
その時自分が今まで何をしたかが分かった。
だからこれ以上傷つけないように窓から逃げた。
木刀だったから、死にはいたらないだろうとは考えたが、その木刀が真剣だったらと考えるとぞっとして、吐き気がした。
もし真剣を使っていたら、万事屋のあの部屋が真っ赤に染まっていた。
護ろうとした大切な仲間たちの血で、染まっていただろう。
そんな事はしたくなかった。
あの後、辻斬りをしていた理由は、意外にも土方にばれてしまっていた。
土方は自分の事を信じているのか、信じていないのか分からない。
でも、それでも少し嬉しかった。
土方はいつも通り話しかけてくれた。
ふざけてくれた。
そして、遠回しに自分たちを逃がしてくれた。
不器用な奴だ、と銀時は少し笑う。
『あの話』を聞いて銀時は怒った。
だから殺してしまった。
早く始末してしまわなければならなかったから。
だが今考えれば、殺さずとももっと他の方法があった。
木刀で気絶させて、真選組が来るまでそこらへんに縛り付けているのでも良かった。
刀は最初に斬った奴から貰った。
最初はおどしてしまおうと思っただけなのに、いつの間にか自分は血だらけになっていた。
そして手には生首と食料。
何故?
誰の?
そう考えた時に思い出した。
自分が探していた奴らの首だ、と。
なら自分が殺した?
やはり自分は鬼だから。
だから人を殺したんだ。
その時に思った。
これは昔の自分なのではないかと。
仲間も敵も傷つけたくないから木刀を持っていたのに。
なのにまた人を殺してしまった。
理由がどうであれ、殺したことに変わりはなかった。
師から教えてもらった剣の使い方を忘れてしまっていた。
自分は何とできの悪い弟子なのだ、と思った。
護るための剣だったのに、殺す剣になってしまっていた。
その剣で誰かが傷つくのはもう嫌だと思った。
死ぬ、という選択があった。
もう苦しいから
終わらせたい。