気づいた時には……

□三話 血塗れた男
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「銀……時?」



 銀時はゆっくりとこちらを向いた。

 その殺気に少しだけ身震いをした。

「……銀さん。そんなとこで何やってんだい?」

「何って見て分からないか、日輪」

 銀時は無表情のまま刀を月詠と日輪の方に向けた。


「人殺しだ」


 そう言った銀時の顔は何も感情がないように思えた。

「……じゃあそんな物騒なもん捨てて、こっちに来な。酌でもしてあげるからさ」

 銀時の顔が一瞬歪んだ気がしたが、それは見間違いだったようで銀時は鼻で笑った。

「人殺しに酌なんざしようとする花魁は始めて見たぜ。……テメェ殺されたいのか日輪」

 日輪は黙って銀時をじっと見た。

「おい、何とか言えや。それとも俺が怖くて動けねェってか?」

「誰もそんな事は言っておらん。銀時、わっちは主が怖いと思ったことは一度も――」


「嘘つくんじゃねェ!」


 月詠はビクッとする。

 銀時がこんなにも怒るなんてなかった。

 自分の為を思って怒る、そんなんではない。

 今の怒鳴り声は、銀時自身が壊れていて、優しくされるのを拒んでいるような、そんな感じだ。

「俺は鬼だぞ?
 『屍を喰らう鬼』だ『白夜叉』だの呼ばれている。
 そんな鬼が怖くないだぁ?
 そんな奴この世に存在しねぇんだよ。
 俺に抵抗する奴ァ全員殺すだけだ」

 そこで月詠と日輪は驚く。

 何故そんなにも自分を鬼だと主張するのだろう?

 人間らしく真っ直ぐに生きていたこの男が、何故迷っている?

 何処で間違えた?
 なぜ人を殺す?
 何故……。


「銀時何故じゃ」

「あ?」

 月詠は叫ぶ。

「何故そんなふうになってしまったんじゃ!?
 主はいつもわっち達を護ってくれた!
 主もこの場所が嫌いなわけではないじゃろ!?
 神楽や新八はどうしたんじゃ!
 何故1人なんじゃ!答えなんし銀時!」

 すると銀時はハハッと笑う。

 暖かくも、優しくもない。

 冷たく感情のない、不気味は笑い。

「護っただァ?俺ァなぁ、


 護れたもんなんて今まで1つたりともねェんだよ」

「「!?」」

「俺は護らずに壊す事しにたわ。だってその方が俺にあってるだろうよ」

 この男は壊れている。

 どこか支えていた物が崩れ落ちて、不安定になっている。

 何故その支えが無くなったのかは分からない。

 何があった。自分たちが見ていない間にこの男に何が起こった?

「それになァ、俺は仲間なんぞ必要ねェんだよ。
 言ったろ?壊すことにしたって。
 護るなんて甘ったるい事ぬかさねェよ。
 護れねぇなら全て壊す。
 そうすれば」

 銀時はニヤリと笑う。





「―――――護らなくて良いだろう?」




「銀さん、アンタまさか……」

「一通り肩慣らしは終わったぜ?もう何人殺したかわからねぇくれぇにな。そろそろ話は良いだろ?遊ぼうぜ、月詠」

「頭には触れさせない!」

 そう言って百華の一人が銀時に襲いかかる。

 銀時は無表情で蹴り飛ばした。

 飛ばされて壁に打ち付けられ気絶した。

「雑魚は引っ込んでろ。準備運動はもう、終わったんだよ」

 するとまた百華が銀時にクナイを一斉に投げた。

 すると銀時は

「遅ェ。弱すぎんだよ」

 と言って刀で全て叩き落とした。

 月詠と初めて会った時とは全然違う。

 あんなに多くのクナイを投げられたのにもかかわらず、全て落として、銀時には傷一つついていない。

 その場にいた全員が驚いた。

 百華が弱い訳ではない。

 銀時が強すぎるのだ。

「クナイってのはなぁ、こうやって使うんだよ!」

 銀時がクナイを持つ。

 するといつの間にか百華の全員の方や足、腕などに刺さった。

 クナイが速すぎて見えなかった。


「心臓に当たらなくて良かったなァ、オメェ等」



 その時その場にいた全員が悟った。

 外れたんじゃない。銀時がわざと外したのだと。


「さて、もうどうせ雑魚どもはろくに戦えねェだろ。次はテメェだ、月詠」

「そんな銀さ「分かりんした」月詠!?アンタそれどういう意味か分かってんのかい?!」

「そうこなくっちゃなァ、“死神太夫”?」

 月詠は日輪を後ろの方にやり、クナイを構えた。

「……日輪、これ以上被害を出すわけにはいかんじゃろ。
 だからわっちは銀時を止める。
 そのために、勝つんじゃ」

「ほう?それは俺を殺しにかかるってことで良いんだなァ?」

「違う」

 月詠がそう答えると銀時は目をスッと細くした。

「わっちは主を助けるために、護るために戦うんじゃ」

「俺を護る?何を馬鹿な事を――」

「馬鹿なのは主の方じゃ。
 主は吉原の救世主。この吉原の危機を三度も救ったのは紛れもなく、

 坂田 銀時、主じゃ。

 吉原を護ったのは主じゃ。
 なのに護った事など一度もない?ではこの吉原は?鳳仙を倒したのも、師匠――地雷亜を倒したのも、鈴蘭の約束をかなえるために戦ったのも、わっちは坂田 銀時という男だと記憶しておるが?」

 銀時は眼を軽く見開く。

「俺が……護った?」

「そうじゃ。だからこんな事、止めるんじゃ」

 銀時は何か混乱していた。まだ、間に合う。

 これからやり直せばいい。

 吉原で身をひそめ、ひそかに暮らせばいい。

「銀さん、もう1人でしょい込むのは止めて、楽になったらどうだい。
 あたしたが愚痴でもなんでも聞いてやるからさ」

 日輪も前に出てそう言った。


「銀時」
「銀さん」


 銀時が何か言おうとしたその時、


 キィィィィィィィィィィン!!


 後ろから何者かが銀時に斬りかかり、銀時がその攻撃を受け止めた。





「久しぶりですねィ、白夜叉」




 あぁ、まただ

 人間になる

 一歩手前で

 壊す者



 何故

 いつもそれは

 銀色の

 心の支えであった

 信じた者?



三話 血塗れた男 (完)





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