闇夜の月光
□第1章
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西暦3034年 4月5日 PM 10:30
「いっやぁ〜、面白い子達だったね♪」
男性が隣りを歩く少女に話しかける。
少女の背丈は男性の肩に届くくらい。
はたから見れば親子と間違われそうな光景だが、全く違う。
男性の名前は北村哲(とおる)、少女の名前は黒谷(くろや)雅(みやび)と言う。
彼らが歩いている所は“黒龍の使者”という裏の組織(詳しくは設定へ)の廊下。
先ほど“闇狩り”を終え、帰るところで人間の少年と少女に出会った。
「彼らは“力持ち”でしたね。麻鬼に言ってこちらに入れますか?」
「わ〜。み〜ちゃんったら冷静〜♪」
そんな事を言いながらも、哲は心の中では雅を心配していた。
雅は最近、表情が全く無くなった。
ここに来た当初は、2歳になったばかりにも拘らずまったく泣かないで辛い訓練にも耐えていた。そして、ほとんどいつも笑顔を浮かべていた。表情も豊かだった。
しかし、“闇狩り”を行ううちにどんどん表情が消えて行った。
雅の養父である黒谷麻鬼も表情が豊かな方ではないが、血が繋がっている訳でも無いのに此処まで似なくても良いだろう、と普段から仲間たちは思っている。
哲は、人間と言う生き物は感情が消えたら生きてはいけないと思っている。
雅は力も心も強い。だからちょっとの事では死んだりはしない。
しかし、このままでは確実に雅の心は壊れてしまうと思っていた。
(さっき会った子供たち……。彼らに、ちょっと手伝ってもらうか…)
そんな事を考えながら哲は雅の後ろを歩いてゆく。