銀色×僕SS

□第三話
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 凜々蝶が二年生になり、銀も進級していた。

 銀も凜々蝶も、家柄と外見で人気があった。

 銀の方は「敬われるのは嫌だ」と言って普通に接してもらっていて、友達がかなりいた。

 いっぽう凜々蝶はあまり友達がいなかった為、苛められるのではないかと少し心配していた。

「(って俺は過保護か)」

 内心自分に呆れつつも、大丈夫だろうと思っていた。

 だがある日。銀は妙に胸騒ぎがしていた。

『銀、どうしたの?」

 ずっと黙っていた銀に、友達が心配そうに訊く。

 銀は何でもない、とニコリと笑って見せる。

 友達はそれで納得した。だが銀はモヤモヤしたままだった。

 すると予感は的中したらしく、ある男子生徒が凜々蝶がトイレに連れ込まれるのを見たという。

 銀は急いで向かった。

 全力で走っていくと、何やら争っている声が聞こえた。

 中を見ると凜々蝶が数人に追い詰められている。

 1人の生徒が水が入ったバケツを持っていた。

 その生徒が凜々蝶にかけようとしている。

 銀は急いで凜々蝶の方に走った。


「(間に合え……!)」



 そして

『あんたってつまんないのよねぇ』

 バシャッ







「っ冷た…………」








『『『な!?』』』




「銀……!?」



 銀はギリギリで間に合い、代わりに銀が水をかけられた。

 生徒も凜々蝶も唖然としている。

『て、天狼聖さん……!?』

「お、私の事知ってるんだ。ならわかってるよね?」

 銀はニコリと笑った。ただし目だけ、だが。



「凜々蝶に謝ってくれる?」


 生徒たちは少し怯む。

「凜々蝶がつまらない?好き勝手言ってくれるねぇ。それに今はプールの授業じゃないんだから、水をかけようなんて思わない事。分かった?」

 すると銀は笑顔もやめ、睨み付ける。

 生徒たちはあまりの恐怖に涙をためた。


「早く謝れ。お前らに凜々蝶の何が分かる?

 勝手な理由で傷つけんな!」


 とうとう泣いて出て行ってしまった。向こうで教師と泣きながら生徒が何か話していた。

 銀はくるりと後ろを向いて凜々蝶の方を向いた。

「大丈夫だったか?」

 凜々蝶はコクリと頷くと、心から安堵したようで銀は笑みをつくった。

 髪は先程の水で濡れてテンパが少しだけ直っていて、太陽の光が照らし、キラキラと輝く。

「……銀!なんでこんなとこにいるんだ!?」

「じゃあなんで凜々蝶も此処にいるんだ?」

「………僕が先に訊いた。だから先に君が答えるべきだ」

「んーと……トイレ」

「そんなわけ――」

「おーいたいた」

 後ろから妙に棒読みの声が聞こえて振り向くと、タオルを持った銀の同級生であり、凜々蝶のお兄さん的存在の反ノ塚 連勝だった。

「早く来てくれないと、俺覗き魔みたいになってるんだけどー」

「今行くって」

 銀は苦笑して少し濡れた手で、凜々蝶の手を引いてトイレから出た。

「うわー、ほんとにびしょ濡れ。ほいタオル」

「サンキュー、連勝」

 因みに銀は連勝にも男口調で話していた。

 そしてこの口調で話しているのは凜々蝶と連勝だけである。

 銀は髪をほどき連勝から受け取ったタオルで頭をガシガシと拭いた。

「髪は良いとして服は?」

「んなもん体操着で良いんだよ。……あ、やべ、体操着ねェ……。連勝、貸してー」

「えー、俺の体操着ビショビショになるー」

「洗って返すから貸せ」

「あーはいはい」

 連勝はしぶしぶと言った様子で承諾した。


「天狼聖!」


「……うわー来たよ」

 銀は心底嫌な顔をして、くるりと向きを変えた。

 呼んだのは凜々蝶の担任だった。

「先生、何の御用ですか?」

「御用、じゃないだろう!?何故下級生を苛めた!?」

 先生の後ろには泣きじゃくっている子供たちがいた。

「(メンドくせー……)」

「あれー?銀、下級生苛めたの?」

「連勝は黙ってて」

「どうなんだ!」

 教師が怒鳴るので、皆がこちらに注目していた。

「苛めてませんよ。ただし私は、ですけど」

 後ろの生徒がびくっとした。

「どういう事だ?」

「私は注意しただけです。あの下級生たちが凜々蝶をいじめていたので」

「そうなのか?」

「貴方本当に教師ですか?」

 銀は教師が怖がらない程度に軽く睨んだ。

「自分のもつクラスの生徒位把握しておくのが普通でしょう?なのにそうなのか?

 呆れますね。自分の生徒が苛められているのにも気づかなかったんですか?」

 教師は黙ったままだった。

 だがゆっくりと口を開く。

「……とりあえず、話を聞こう」

 そう言って凜々蝶は担任につれていかれた。

 もちろん泣いていた生徒も連れていかれ、銀の目を見ずに行った。

「ったくなんだあの嘘つき野郎どもは」

「まあまあ。……それより心配だな、アイツ」

「……あぁ」

 そう言って二人は教室に戻った。

 するとクラスのほとんどが銀の方に集まった。

『銀、大丈夫だった!?』

『ってなんで天狼聖びしょ濡れなんだ!?』

「あー……水飲もうと思ったら、水道が壊れててかかっちゃった」

『えー、災難過ぎるでしょ』

 そして皆で笑っていた。

 銀はクラスの皆の気づかいが嬉しかった。

『あ、体操着貸そうか?』

「大丈夫、体操着濡れちゃうでしょう?」

「えー、俺のはー?」

「連勝のはいいの」

『相変わらず仲良いねー』

 他の女子は髪を拭いてかわかしてくれたり、髪をとかしてくれたりした。

 男子は気さくに声をかけてくれた。

 銀は何よりワイワイやって楽しかった。


「ありがとう、みんな」


 銀がニコリと笑うとみんなぽ〜っとして銀を見た(連勝は呆れている)。


「?どうしたの?」


『『『この天然め……!』』』


「へ?」

「あーあ、またやってるよー」

 銀は訳が分からず首を傾げ、男子は顔を赤くし、女子は「可愛い」と連呼し、キャーキャー言っていた。



 連勝だけが、無自覚の銀を見て、席で静かにため息をついた。
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