気づいた時には……
□十九話 同じ背中
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土方が黒夜叉たちのもとから帰ってきた次の日。
そうとは知らずに神楽は新八の家の畳の上でごろんと寝転がっていた。
「……白夜叉が殺人やってたなんて信じられないアル……」
神楽は今、万事屋にいたらいつ白夜叉に殺されるか分からないから、という理由で、新八の家に居候している。
白夜叉が辻斬りをしていた、と知った時から裏切られた怒りと、相談もしてくれなかった悲しみが込み上げてきた。そんな変な感情を白夜叉にぶつけた。沖田が「お前は鬼だ」というと笑い出した。
まるで狂ったように。
あの時の恐怖は忘れられない。自分が襲いかかると、白夜叉はニヤリと笑ったまま自分を木刀で殴った。あんな顔見たことがなかった。まるで『殺し』を楽しんでいるかのようだった。
いつもなら護ってくれていたあの木刀で、自分は重傷を負った。あの一撃で、だ。夜兎族だから治り、約三日で治った。だから、白夜叉が吉原で暴れていると聞き。駆け付けた。
久々に会った白夜叉の目は怖く、血があちこちについていて不気味だった。
白夜叉は日輪を人質にとった時、怒りを覚えた。何でこんな事をするのだろう?日輪は仲間じゃなかったのだろうか?
仲間を護らないあんな奴、もう仲間や家族なんかじゃない。
「銀ちゃん、どうして殺人なんて犯してしまったアルか?私、信じてたのに……酷いヨ銀ちゃん」
そんな事を考えているとあの万事屋での日々は楽しかったな……と思い出す。白夜叉はいつもダラダラしていて、仕事もろくにしなかったし、給料もろくに出してくれなかった。お年玉もくれなかった。でも星海坊主よりも白夜叉の方が父親っぽくて、本当の家族の様だった。いつもそばにいてくれた。護ってくれた。笑ってくれた。
そこでふと思った。
白夜叉は本当に殺人を犯したのか?
「……そう言えば私、その事件の事何も知らないアル」
あの日の後は白夜叉がやってたことは確実だが、その前は本当に白夜叉がやったのだろうか?
最近辻斬りが出る、と聞いたときは何とも思わなかったが、その犯人は銀髪の紅い瞳の鬼、という噂だけで白夜叉が犯人だと決めつけた。それ以外何も知らないというのに。
ちょくちょく白夜叉が出かけて、朝に帰ってきた日に人が殺されるが、白夜叉がやったとは限らない。それにしてもあまりにも都合がよすぎる。だからこそ白夜叉がやったのだと思い込んだのだ。だが、よく考えてみれば夜兎族で人一倍血のにおいに敏感な神楽が、辻斬りをしていた白夜叉についているはずの返り血のにおいに全く気が付かなかった。洗い流したとしても微かにするはずだ。
だいたいいつも木刀を持っているのに、何処で真剣を手に入れたというのだろうか。
白夜叉がやったというには証拠が少なすぎる。それなのに疑ってしまった。とすると、本当に酷いのは信じてやれなかった自分達なのではないか?
白夜叉が裏切ったと思っていた。信じてたのに、と。
だが、それがもし逆で、白夜叉が辻斬りの犯人じゃないとしたら、白夜叉が今の自分と同じように、信じていたのに、と思っているはずだ。
そうだとしたら
「死んでしまえ」?
「家族じゃない」?
「私、最低な奴ネ……」
神楽は手で口元を抑える。皆がそう言ったから本当なのだと思ったが、そんな事は関係ない。
皆が白夜叉を嫌う中、白夜叉の幼馴染たちは白夜叉を信じた。あの血塗れた夜叉に手を差し伸べていた。吉原で白夜叉は、土方と昔のように言い争っていた。
もしかしたら、土方は真実を知っているかもしれない。
「調べなくちゃいけないアル。本当の真実を、知らなくちゃいけないネ」