気づいた時には……
□十六話 影の拾い『もの』
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話を聞き終わった晋助達は黙っていた。銀時が冷や汗を流していた。
「えっと……なんでしゃべらない……のかな?」
銀時が聞くと、松陽が突然銀時を抱きしめた。
「先生……?」
「……つらかったですね、銀時」
銀時の肩が少しだけ動いた。松陽は更に、腕に力を込める。
「仲間に鬼とおそれられながらも、1人で良く護りましたね。自ら鬼となり、殺す事を嫌っていた貴方が人を斬り、その事情を誰にも話せずに孤独と戦ってきたのは、つらかったでしょう。寂しかったでしょう。そんな辛い時に、私は貴方を――貴方たちを助けられなかった。ごめんなさい」
銀時はほんの少し赤い瞳に涙を浮かばせ、首をふるふると横に振った。
「もういいよ……。だって先生は生きててくれたじゃん。先生も大変だったわけだし、先生が気にする事じゃねーよ」
銀時が言うと、松陽はゆっくりと銀時から離れ、今度は頭を優しく撫でた。銀時はそれに目を細めた。
だが、急に松陽の笑みが黒くなった。
「しかし、その人たちは何考えてるんでしょうかね?銀時は手を出さないでほしい、と言いましたが、こればかりはどうしようもないですね。なんせ銀時の事を『鬼』だ何ていう愚か者どもをころs―――抹殺しなければなりませんから。手伝ってくれますよね、小太郎、晋助、辰馬?」
その言葉に銀時達は顔を引きつらせた。
「落ち着いてください、先生!」
「そうぜよ。だいたい今殺しても意味ないぜよ」
何故か松陽同様黒い笑みを浮かべている辰馬が発言した。
「まぁそれもそうですね。今回は虫の息になるくらいで許してあげましょう」
「それって死と同じだよな!?」
「いえ。少しだけ後悔の時間をあげると言う少し軽い刑にしました。本当は恐怖のどん底に落としてから、じわじわと息の根を止めたいところなんですよ?」
「先生、落ち着け」
晋助が顔を引きつらせながら言った言葉に、松陽は「落ち着いてますよ?」と平然と言った。
「……でも、本当に、悪いのはアイツ等じゃないんだ」
「何を言うんですか、銀時?あなたのような優しい人間を疑う様な不届きものですよ?」
「先生、怖いです」
銀時は苦笑して「でも」と再びつなげた。
「俺馬鹿だからさ。まだアイツらの事大切だって思っちまうんだ。壊したくないって。俺が鬼と言われて嫌われても、アイツ等さえ笑ってりゃいいって、思う。アイツらが、幸せなら俺は何も望まない。だからさ、先生、小太郎、晋助、辰馬」
銀時は頭を下げた。
「あいつらに手を出さないでくれ。頼む」
そう言う銀時の声は必死で、震えていた。
「……顔を上げろ、銀時」
何秒か経った後、小太郎は声をかけた。
銀時が顔を上げると、四人とも優しい顔をしていた。
「俺達はきっとリーダーたちを許せないだろう」
「だが、テメーがそう願うのなら俺達が手を出すことはしねェ」
「安心するぜよ。おまんが悲しむことはしないき」
「貴方が大切だと思うのなら、最後まで信じて護りなさい」
銀時はほんの少し微笑んだ。
と、そこで部屋の外で女の人の声がした。
「松陽様、並びにその弟子の皆様。黒夜叉様より伝言を預かっております」
松陽は「はいっていいですよ」と声をかけた。するとすうっと静かに襖が開いた。
襖の奥にいたのは着物を着た女の人だった。
女の人は正座をして手を前で揃えて頭を下げていた。きっと女中か何かだろう。
「申し上げます。黒夜叉様から伝言で『面白いものを拾って来たからすぐに会議の場へ来るように。』とのことにございます」
伝言を聞くと五人は首を傾げた。
「面白い物?なんだろうそれ?」
「拾うてきたゆうことは……猫とかかのう?」
「んなわけねぇだろ、馬鹿本」
「すぐに、という事は急ぎの事なのか?」
「では、行きましょうか」
「ご案内いたします。どうぞこちらへ」
すっと立ち上がった女中の後を、五人はついて行った。
「面白い物かぁ。何だろうな?」
少しうきうきしている銀時に、小太郎はため息をつく。
「甘味ではないと思うぞ」
「それくらいわかるわ!!何で甘味を拾ってくるわけ!?おかしくね!?」
何処まで馬鹿にするんだ、と銀時は拗ねる。
「以外と将軍の首だったりしてなァ」
晋助はそう言って不敵にニヤリと笑った。
「こら。冗談でもそういう事を言ってはいけませんよ?」
「先生に言われたくないぜよ……」
先程まで神楽達を抹消するとか言っていた松陽に言われたくはないと、辰馬同様銀時たちも思った。
「なぁ、黒夜叉は何か他に言ってなかったのか?」
女中は静かに首を横に振った。
「いえ。内容までは存じません。黒夜叉様は、そう伝えろ、とだけ」
「ふーん。じゃあ見てからのお楽しみって訳か?」
「そういう事だと思います。……昔からあの方の考えていらっしゃることは分かりません」
最後のぼそりと言った言葉は違和感を覚えたが、訊くのは止めた。
雑談をしながら暫く歩いていると、少し豪華そうなドアが100メートル程先にあった。
女中はそのドアの前でピタリと止まる。