気づいた時には……
□十四話 種明かし
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銀時たちは少し話した後、ここに泊まることに決めた。
「では我はこれで失礼するか」
千代が突然立った。
「どうしたんだよ。まさかなんか出かけるのか?」
「違うが……。我がいない方がいろいろ話しやすかろう?」
いたずらっぽく笑ってから、部屋から出て行った。
「気を使わせてしまったようですね」
「なーんか、黒夜叉に気を使われると調子狂うよなぁ……」
「こら、銀時。そう言う事を言うものではありませんよ?」
銀時は「はぁい」と返事した。
やはり松陽には逆らえないようで、素直になっている。
まるで子供に戻ったようだ。
「そう言えば先生、あの……」
小太郎が言いにくそうに、何か言葉を探していた。
「?どうしたのですか、小太郎?」
松陽は首を傾げたが、幼馴染である三人には分かったらしく、銀時と晋助も「あー」とか「うー」とか言っていた。
だが、辰馬があははっと笑って簡単に答えた。
「攘夷戦争の時に送られてきた先生の首は幻術ながやきかって聞きたいちや」
「「「た、辰馬ァァァ!!」」」
焦った三人は思いっきり辰馬の頭を殴った。
「い、痛いぜよ〜……」
「何故貴様はいつもそう直球なのだ!」
「もう少しオブラートに包む言い方は出来ねェのか!!」
「やっぱお前は馬鹿本だな」
「ひ、酷いちや……」
そんな光景を見て、松陽は苦笑いをしてから、
「座りなさい」
と優しく言った。三人はハッとして、座った。
「あれは幻術ではありませんよ」
「じゃ、じゃああれはいったい……?」
「あれは千代さんたちが土粘土等で作った私そっくりな物です」
「じゃ、じゃああの血は?だって、鉄の匂いしたし……」
「あぁ。あれですか。あれは錯覚のような物らしいですよ?」
四人は首を傾げた。
「あれは血に似せた、ただの絵の具です。その匂いを消しただけなのです。千代さんによれば、見た物が『血』と脳で認識してしまうと、勝手にそう感じてしまうそうですよ」
「メ○タリストかアイツは……」
例を挙げてしまえば、かき氷のシロップがピンクだったらイチゴ味に、黄色だったらレモン味に、緑だったらメロン味に感じてしまう。
本当は同じ味なのに、見た目が違うだけで、脳が勝手にそう判断するだけで、味までもを変えてしまう。
それの嗅覚版である(←意味わからん)。
人間とは不思議なものである。
「でも、幻術でも良かったんじゃねェのか?」
「それでも良かったらしいのですが、幻術だとずっとそっちに気を使わなければならないし、作るのが楽しそうだったから、だそうですよ?」
「「「「子供!?」」」」
四人全員でつっこんだ。
「……前のあれからは想像つかねェな……。ま、今だと想像めっちゃつくけどな」
前のあれ、とは幻術の時の黒夜叉のことである。
「ってことはあの黒夜叉の天人の顔も?」
「そうですよ。凄いですよねぇ」
凄いの域超えてるだろ!?と思ったが、誰も声にはしなかった。
「よくも思いつくよな、天人の顔とか」
「……あれは、千代さんのお父上のお顔に似せたものだそうです」
「おぉ!やきあがにリアルじゃったがか!」
「馬鹿、ちげぇよ。だからお前は馬鹿本なんだよ」
「あはは〜。それはないぜよ。新八君みたいに言わな―――あ」
辰馬はしまった、と口を押えたがすでに遅く、銀時は暗い顔をし、小太郎と晋助は思いっきり辰馬を殴った。
「「た〜つ〜ま〜?」」
「あ、あはは……」
顔を引きつらせる辰馬に、松陽が少し真剣な表情で口を開いた。
「銀時。信じてもらえなかったというのは、本当ですか?」
「「「(先生結構直球……)」」」
銀時は俯いたままこくりと頷いた。
「ほとんどの奴に、信じてもらえなかった……。
まぁ、結局人斬っちまったけどな」
銀時は悲しそうに苦笑した。
「……先生、ごめんなさい」
「どうして、謝るんですか?」
頭を下げた銀時に、優しく返す。
「だって俺、先生の教えに背いちまったから……。護る剣を教えて貰ったのに、護ることなんてできなかったから。だから――――」
「何を言うんですか?あなたは護ったから、ここに今こうしていられるんでしょう?」
銀時はえ?と驚いた顔をした。
「昔、私が銀時に教えた剣の使い方を覚えていますか?」
「……『敵を斬る為ではない、弱き己を斬る為に。己を守る為ではない、己の魂を守るために』でしょ?」
「はい。よく覚えていましたね」
松陽がニコリと笑えば、「忘れる訳ないだろ」とふてくされるように、照れたように銀時が言う。
そんな銀時の頭を松陽は優しく撫でた。
「貴方は私が教えたことに背いてなんていません。だいたいそうだとしても私が教えたことがすべて正しいとは言えません。だから、気にする事なんてないんです」
銀時が何かを言おうとしたのを遮るように、それに、と続けた。