気づいた時には……
□十話 影の動き
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真っ暗な部屋の中、上司であろう天人が1人と部下であろう人がその前に跪いているがいた。
「報告を」
そう訊くと部下は「はっ」と言った。
「白夜叉は……辻斬りをしていたようです」
「……それは本当か?」
「はい」
上司は少し黙っていたが、ゆっくりと口を開いた。
「白夜叉は、何故そんな事をしていた?」
「調べによりますと、白夜叉が辻斬りをしているという嘘情報が流れ、真選組が捕まえようとしたところ、白夜叉が狂いだしたそうです」
「嘘情報?」
「はい。どこから流れたのか、白夜叉が辻斬りをしているとの情報が流れました」
上司は顔をしかめた。
「それを誰も信じなかったのか?」
部下は「いえ」と言った。
「信じた者は幼き頃から一緒で、大罪人の吉田 松陽の寺子屋に通っていた童どもの桂、高杉、坂本、そして吉原一の花魁と言われた日輪と死神太夫は信じたようです」
「他の者はどうした」
「万事屋を共に営んでいた童ども、真選組も駄目です。ただ……」
「ただ、なんだ」
「……ただ、副長の土方は良くわかりません」
上司は首を傾げた。
「土方は白夜叉を捕まえるのにあまり協力しなかったとの報告があります。それから、辻斬りの被害者の事を何から何までよく調べていたようです」
「何故だ?」
「理由は分かりませんが少々不自然な点がいくつか見つかりました」
部下は何枚か紙を取り出し、上司に差し出した。
「これは……被害者か?」
部下ははい、と返答した。
「偶然かもしれませんが、一部だけ一致しているんです」
上司はその資料に目を通した。
途中で軽く眼を見開いた後、フッと笑った。
「白夜叉らしいではないか」
「白夜叉らしい?どういう事ですか?」
「白夜叉が良くやりそうだと思ってな」
愉快そうに笑う上司に、部下は意味が解らないと首を傾げた。
「成程な……。報告ご苦労。下がってよいぞ」
「はっ。失礼いたしました」
部下はスッと消えた。
上司は部下がいなくなったのを確認すると、後ろに声をかけた。
「もうよいぞ」
すると後ろから、1人の男が出て来た。
その男は下を向いていた。
「で、どうする?」
「……そんなの決まっています」
男は顔をあげた。
男の顔は真顔だった。
「私は、貴方に従うまでです。黒夜叉様」
そんな男に黒夜叉と呼ばれた者は、口元をニヤリとさせた。
「もうすぐ弟子たちに会えるかもしれぬぞ、
松陽」
男――――松陽は悲しそうに笑う。
「私はもう、あの子達には会えません。私は貴方に誓ったのですから」
松陽の言葉に、黒夜叉は少し面白くなさそうに部屋を出て行く。
「何処へ行かれるのですか?」
「少し野暮用だ」
黒夜叉はそのまま出て行った。
「銀時、小太郎、晋助、辰馬……。どうか、無事でいてください」