気づいた時には……

□九話 心の内
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 杯を交わし、夜が明けて陽が上り、人々が起きて動きが活発になった頃、晋助も帰って行った。

「……銀時、いつまでその格好でいる気だ?」

 暫くして、小太郎が外をぼーっと見ている銀時に言った。

「……ダメか?」

 因みに今の銀時の格好は前の万事屋の時と同じ和洋の服である。

 だがこの服のまま銀時は人を殺していた為、髪にも、顔にも、服にも血がべっとりとついている。

 小太郎たち(特に晋助)は慣れているが、他の者には少しきつい。

 本人が別に良い、と言っても、小太郎も少しばかりその姿を見ていると、胸を締め付けられた。

「ダメ、という訳ではないが……。だが風呂にでも入ってきたらどうだ?服も用意してやるから」

 銀時は「そうだな」と言って風呂に向かって行った。

 銀時は脱衣所に行って脱いだ自分の服を見る。

 そこには自分の血ではない、他の人間の血が付いていた。

 付いている血は全て返り血だった。

 今まで子供の時のように『屍を喰らう鬼』と呼ばれる存在になっていたので、風呂は入ってない。

 蛇口(?)をひねってシャワーを出す。

 お湯が出て来て、顔や髪についた血が少しずつ落ちていった。



 血と一緒にこの悲しみも、全て流れればいいのに。


 そう思ったとき、銀時ははっとして苦笑した。

 こんな事を思ったのは攘夷戦争以来だった。

 あの時は天人を、斬って斬って斬りまくって。

 仲間を救おうと頑張ったのに、護ろうと思ったのに、結局護れなかった。

 自分がいくら多くの天人を斬っても、仲間は死んでいく。

 それが辛くて、憎くて、悔しくて、悲しかった。

 雨が降った日、その雨と共に、この悲しい気持ちも、こんな戦争も流れてすべてなくなってしまえば良いのに。血も心も、嫌なもの全部……。


 銀時はシャワーを止め湯船につかった。

 思わずため息が出て体の力が抜けた。

 そこで思い出したのはやはりあの楽しかった万事屋での日々。

 神楽と新八はいつも自分をマダオだと言って責めた。

 喧嘩した。

 定春にかじられて頭から血を流したり、家賃を払ってなくてお登勢達に追い掛け回されたり、誰かが厄介ごと持ち込んだり……。

 そんな毎日も楽しかった。


 皆で騒いで

 ふざけて

 笑っていた。


 問題が起きたら皆で解決していた。

 誰かが間違ったら、誰かが止めに入った。

 神楽はとにかく我儘だった。

 新八は母親のように口うるさくて音痴だった。

 でも笑顔を向けてくれた。

 お登勢も、キャサリンも、たまも……皆いつも五月蠅いと思いつつも、それが賑やかで楽しかった。

 真選組も最初は厄介な奴だとは思った。

 近藤は何かと妙の事で絡んできた。

 土方は近藤の敵だ、とか小太郎と一緒にいるから危険な奴だ、とか言って刀を向けてきて戦おうとしてきた。

 沖田はやたらと銀時を慕って絡んできた。

 そして必ず真選組は万事屋を巻き込んだ。

 ミツバのことだったり、伊藤の事だったり、見回り組との対決の時だったり……(あれ?土方ばっか?)。

 全て銀時が関わっていた。

 山崎は紅桜の事件の後、ずっと自分を監視していたのは知っていた。

 少し厄介だと思いつつも、別に気にしなかった。

 真選組も、神楽も、新八も、定春も、お登勢も、たまも、キャサリンも、皆信頼していて、いると楽しくて、暖かくて、家族みたいで……。

 そう思ったらいつの間にかまた背負ってしまった。

 護りたくなってしまった。



 絶対に護りたい

 一緒に歩きたい

 一緒にふざけたりしたい

 一緒に笑いたい



 でも己はそんな人たちに信じてもらえなかった。

 殺人犯だと疑われた。

 あの場所にいた者は皆、信じてくれなかった。



 誰も「違う」と言ってくれなかった。



 自分は鬼だから。

 だから皆離れていってしまったんだ。

 じゃあ自分が鬼じゃなかったら


 ずっと一緒にいられたのか?





 信じてくれたのか?





 疑わないでいてくれたのか?







    
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