気づいた時には……

□九話 心の内
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 いつの間にか吉原で殺人を犯していた銀時は、日輪と月詠に見られてしまって悲しかった。

 また、信じる者がいなくなっていく。

 それでも日輪と月詠は信じてくれた。

 救世主がそんな事しないと。

 それに自分は護ったものがあったのか、と少しホッとした。

 だが真選組が来た時、やはりこんなに優しい者達がいては、いつか自分が傷つけてしまうのではないか?

 それに、護りたい人達がたくさんいた。

 この者達によって終わるなら良いかな?

 そう思ってわざと日輪を使って月詠も挑発してみた。

 月詠は銀時を憎んだ。

 だが、日輪は怯えもせず、憎みもせず、ずっと信じてくれた。



 嬉しかったが、限界だった。



 そして神楽と新八が来た。

 仲間だとは思っていなかったが、最後に解釈してくれるのか、と少し嬉しかった。

 これで解放される。

 でも少し悲しかった。

 そんな時時小太郎や晋助、辰馬たちが現れ、助けた。


 正直あの時嬉しかった。


 自分を殺そうとするのではなく、護ってくれたのだ。


 だがそれが逆に少し怖かった。

 また自分はこんなにも想ってくれている大事な仲間を、護りたいと思ったものをこの手で殺してしまうのか?

 それは嫌だった。

 だからわざと突き飛ばして、斬りかかった。

 もちろん最初から殺さないつもりだった。

 もし自分が斬りかかったら逃げてくれるかもしれない。

 あるいは敵だと思って自分を殺すかもしれない。

 銀時はどちらでも良いと思った。

 逃げてくれるならその後は自分で命を絶つだけだし、その場で幼馴染に解釈されるなら、自分で死ぬ決心もいらないし、楽だし、その方がみとられているようで嬉しいと思った。

 だが三人は何もしなかった。

 刀すらも抜こうとはしなかった。

 逃げたりもしなかった。

 ただ銀時の目をじっと見ていた。

 三人は言った。


「一緒に帰ろう」と。


 銀時を怖がるのではなく、憎んでるのでもなく、ただ、銀時に優しい言葉をかけてくれた。

 晋助は髪の毛を引っ張ったりして少し乱暴だったが、それでも銀時に


 鬼じゃない


 そう言ってくれた。


 三人とも銀時を疑わず、いつも通りに接してくれた。

 優しくしてくれた。

 更にお登勢は小太郎に伝言まで残してくれた。

 お登勢も「帰ってこい」と言ってくれた。

 しかも謝ってきたりもした。

 お登勢は信じてくれたのに、あたかも自分が悪かったように……。

 自分が一生護ると言ったのに、お登勢が言ったのは「護ってやれなくてすまなかった」だった。

 それには銀時も少しだけ笑った。

 それでも自分を護ろうとしてくれていたのは嬉しかった。

 日輪も「銀時は銀時だ」そう言ってくれた。

 土方も白夜叉と呼んでいたものの、「攘夷志士」としてではない、「万事屋」として見ていた。

 だが、これからは『万事屋』としてではなく、『攘夷志士』として暮らすことになる。

 きっとお登勢には迷惑がかかるんだろうなぁと思い、苦笑した。

 今は小太郎たちと楽しく過ごしたい。

 幼馴染と一緒に、昔みたいに戻って楽しくやりたい。

 あの人がいなくても……。


「銀時ー。そこに置いておいたぞー」

「んー。ありがとヅラー」

 向こうから「ヅラじゃない桂だ!」と聞こえ、苦笑した。

 小太郎が用意してくれていたのは、紺色の着流し。

 もちろん血などついておらず、ぴしっとたたまれていた。

「……主婦か、アイツは」

 そう思いつつも袖に手を通す。

 小太郎と身長はそんなに変わらないため、丈もぴったりだった。
 
 タオルを首にかけて出て行くと、小太郎がお茶を飲んでいた。


「お、あがったか。すっかり綺麗になって……お母さん嬉しい!」

「いつ俺がお前の息子になった。っつーか性別ちげぇだろ」

「しかしあれだな」

「おい、流してんじゃねーよ。自分で言ったくせに何もなかったような口ぶりで話進めんな」

 つっこむ銀時を無視して、小太郎が喋る。

「この光景は、昔と似ているな」

「……あぁ」

 昔、というのは、銀時が松陽に拾われたとき、銀時は血だらけだった。

 その格好もなんだから、と松陽が風呂に入れると、今まで濁っていた銀色の髪がキラキラと輝いて見えた。

 その光景と重なったのだろう。

「『屍を喰らう鬼』ってのも一緒だしな」

 銀時か悲しそうに笑った。



「……銀時」



「あ?」

 小太郎は銀時を真っ直ぐに見た。


「貴様は鬼ではなく、人間なのだからな。俺達に気を使わずに気楽にしてろ。



 ……もちろん死ぬ、などと考えぬようにな」


 銀時は少しだけぎくりとする。

 だが思わず口元が緩んだ。


「…………あのさ、小太郎」

「何だ?」


 銀時は少し黙った後に嬉しそうに微笑した。





「信じてくれて、ありがとな」





「……ふっ。当たり前だ」

 小太郎も嬉しそうに笑った。





 九話 心の内 (完)





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