短編

□wait for…(太一)
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『恋愛』
口に出すのが恥ずかしいくらい純で甘い響き。
実際にはもっと切なくて苦しい甘味であることを、今更になってちゃんと心で理解した。

彼氏のいる女の子にずっと前から恋している。
彼女は幼なじみである俺によくその彼氏のことについて相談してきた。
誕生日には何をプレゼントしたらいいか。落ち込む彼にどんな言葉をかけたらいいか。デートにはどんな服を着て行けばいいか。
たくさんの涙や笑顔を隣で見てきて、彼女の感情に触れるたび胸が締め付けられるようだった。彼女がどれ程彼氏を好きか、手に取るように分かったから。
『あんたもさ、早く幼なじみ離れした方がいいんじゃない?』
彼女の親友から言われた言葉だ。ふとした時に思い出されて何度も何度も俺の胸を刺す。
勝ち目がないのは分かってる。離れるべきだと思ってる。
だけど彼女が俺を頼ってくれる間は『いつかは…』という思いを捨てられそうにないんだ。
ほら、今夜も…

『太一君…?』
電話の向こうでしとしとと雨音が聞こえる。
「ん?どうしたの?」
わざと明るく出した声の裏側を彼女は知り得ない。
『…彼氏に振られちゃった。ごめんね、色々相談に乗ってもらったのに上手くやれなくて。じゃあそれ伝えたかっただけだから…』
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