日記内小ネタ集

□ブン幸
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「はいブン太」
「うお!ケーキ!?」
「そうだよ」


ゆっきーが笑って差し出したのは明らかに買ってきたものだったが、それ以上の贅沢を望むほど俺は飢えてない。
俺に食べさせるためにケーキを選んで買ってきたっていうだけで、その瞬間は俺のことで頭がいっぱいだっただろうから、それだけでいい。


「何がいいか分からなかったんだけど」
「何でもうまいからいい」
「ってブン太なら言うと思って俺の好みで選んじゃった」


俺は弁当そっちのけでゆっきーから受け取ったケーキにフォークを刺す。
ゆっきーは「デザートじゃないの?」とまた笑ったが俺もまた「こんなんメインディッシュに決まってんだろぃ」と笑った。


「超うまい」
「良かった」


そう言って穏やかに自分の昼食を取り始めたゆっきーをまじまじと見つめる。
伏せられた睫毛の長さを見ていると、ふいにその視線が窓の外に降りた。
しばらく動いていた瞳がある一点で止まると、その口元が微かにほころぶ。
そしてすぐにきゅっと結ばれて、その顔は切なそうに歪んだ。
そんな仕草を俺は黙って見ていた。
これを見るのはもう何度目だろう。
そして俺もきっとゆっきーと同じような顔をしていることだろう。


「ぺろりといっちまった!」


あえてゆっきーをこっちに呼び戻すように大きめの声で言うと、ゆっきーは思惑通りこちらを向いて笑った。


「早いねー」
「この大きさじゃもって三口だな」
「嘘だよ、もっとちびちび食べてたでしょ」
「あーゆっきーからの貰いもんだからもったいなくて無意識に小分けしてたかも。五口くらいに」
「あっという間になくなるわけだよ」
「おかわり」
「もうないよ」
「ってことは帰りは付き合ってもらわねーといけねーなぁ」
「はいはい」


まんまと放課後デートの約束を取り付けることに成功した俺はようやく弁当を取り出す。
その間にも、ゆっきーの視線はまた窓の外に飛んで行ってしまった。


「・・・そんな顔するくらいなら見なくていいんじゃね?」


思わず言ってしまったが、ゆっきーは驚きもせずこちらをゆっくりと向いた。


「ふふ、本当にその通りだね」


口元は笑っているが、その瞳には悲しい色が浮かんでいる。
俺はそれをジッと見つめた。
すると困ったように眉を下げて目を逸らす。
俺が外された視線を追いかけるとさらに困ったように笑った。
想い人には悪いが、ゆっきーにこんな顔させるくらいなら想われる資格すらない。


「・・・俺じゃダメ?」


気が付けば自分の口から飛び出していた言葉に、ゆっきーも、そして俺もハッとする。
しばし二人で見合った。
その短時間で、ゆっきーは呆然としており何度も瞬きをしていたが俺は何かもう色々振り切った。


「俺にしろよ」


言葉を重ねるようにその瞳をジッと見つめて口にする。
この熱い気持ちが伝わるように。

俺なら絶対お前にあんな顔させない。




まさかの片思い!
ブン太に「俺にしろよ」って男前に言ってほしかった。
ブンちゃんハピバー!

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