Cherry Blossom
□act.1
1ページ/1ページ
そういえば
花の色は移りにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに (小倉百人一首より)
部屋の中にひびいてくる雨音。
今は昼なのに、窓から陽光がさしてくることもなくて。
俺の気分は沈んでいく一方だ。
前に雨が好きだと言う変わった人がいた。
その人はいつも雨が降ると、俺に言うんだ。
『俺はすきだな、雨。何もかもを洗い流していく、春の雨が、1番すきだ』
気味が悪くなるくらいの、うつくしい微笑をうかべながら。
「意味、わかんない」
今も頭から離れないあの人の微笑を思い出しながら、ベッドの中で独りごちた。
souieba END