ごはんの時間はハルにとって、すごくすごーく楽しみな時間。
だけど、ここで出されたごはんは何だかさみしいなって思った。
お家の時は赤いお花の書いてあるお皿に、いろんな味の入ったごはん。
ここで出されたのは、大きな長四角の入れ物に味が一種類しかないごはん。
それでもお礼はちゃんと言わなくちゃって思ったから、ごはんを持ってきてくれた長靴のおじさんに「ありがとう」っていっぱいいっぱいしっぽを振った。
だけど、そのおじさんはハルのことを一回も見てくれないまま、お部屋から出て行っちゃった。
いつもだったらハルがしっぽを振って近付いていけば、どんな人でも頭をなでてくれたり、ニコッてしてくれたりしたんだよ?
「あのおじさん、怒ってるのかな?」
おばあちゃん犬にそう聞いてみたら、おばあちゃん犬は悲しそうな顔をして言った。
「きっと辛いのね」
「辛い?」
「そう。ハルちゃんだったらどう?これから殺されなくちゃいけないお友達のお世話をしなくちゃいけなかったら」
「悲しい…」
そっか…。
あのおじさんはハルたちが殺されちゃうのを知ってるから、あんなお顔をしてたんだ…。
「うめぇ!施設で食ってた飯よりうめぇよ!」
おにいちゃん犬がお口をご飯でいっぱいにして、そう言った。
おいしそうだなって思ったけど、ハルにはそれより気になることがあった。
それはおにいちゃん犬が言った「しせつ」って言葉。
「しせつってなぁに?」
そう聞いてみたら、おにいちゃん犬はごはんをゴクンって飲んでから、教えてくれた。
「実験施設だよ。おれ、実験犬だから」
「じっけん?ってなぁに?」
そう聞いたら、おばあちゃん犬が言った。
「ハルちゃん、ご飯食べなさい?」
「でも…」
おにいちゃん犬の方を見ると、おにいちゃん犬もハルを見てた。
「実験って言うのはな、人間の安全を俺たちの体で確かめることだ」
「どうやって?」
「体に薬を塗ったり、飯を何日も食わせなかったり、体を切ったりして、確かめる」
ショックで、言葉が出て来なかった。
「もうやめなさい」
おばあちゃん犬がそう言うと、おにいちゃん犬はまたごはんをバクバク食べ始めた。
おばあちゃん犬はもうやめなさいって言ったけど、ハルはまだ聞きたかった。
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