ハルはね、パパとママとゆうくんとななちゃんとずーっと家族でいられるって思ってた。
人間と犬って種類が違うけど、ハルは本当の家族だって思ってた。
でも、これから引っ越すお家にハルは入れない。
犬だから。
ゆうくんとななちゃんは大きな声で泣いてた。
ゆうくんとななちゃんが眠った後、パパとママもこっそり泣いてた。
ハルはその時、知ったんだ。
ママの「ハルが殺されちゃうなんて…」って言葉で。
そこまでお話しした時、お部屋の隅っこでずっと震えてた胴の長い犬が初めておしゃべりしてくれた。
「君は怖くないの?」
たったのそれだけだったけど、おしゃべりしてくれたことが嬉しくって、ハルはその犬に駆け寄った。
「お名前は?」
しっぽを振ってそう聞くと、下を向いたままの犬は小さな声で教えてくれた。
「ピース」
「ピース!よろしくね!」
ハルのご挨拶にピースは小さくうなずいてくれた。
「あ!そうそう今は質問の途中だったよね?」
また小さくうなずくピース。
「本当の気持ちを言うとね、怖いよ?」
本当の気持ちを言ったら、ピースはびっくりしたみたいだった。
ハルはそれを不思議に思って、首をかしげる。
「何でそんなに明るくいられるの?」
「だって、泣いてたら楽しくないでしょ?」
しっぽをいっぱい振ったら、ピースは立ち上がろうとしたけど、やめて、言った。
「僕は怖くてそんな風に明るくできない」
「でも最後の7日間だよ?それなら楽しくしてた方が絶対いいってハルは思うなぁ」
「だって最後は苦しいんじゃないかって考えたら怖くて…」
最後…。
考えないようにしてきたけど、ピースにそう言われたら考えちゃう。
最後はガス室ってとこに入れられるんだよね…。
苦しいのかな…。
痛いのかな…。
「おい!てめぇ!」
びっくりして、声のした方を見ると、おにいちゃん犬がすごく怖い顔でピースのことをにらんでた。
「お前、男だろ!こんなガキが明るく生きようとしてるのに、お前がそんな怖がっててどうする!?男ならもっとビシッとしやがれ!」
ものすごく怖い顔でにらまれたピースは「はい!」とビシッとしたけれど、やっぱり立ち上がることはなかった。
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