空物語[花]
□一大決心
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夜の街にはきらめく光と明るくも心にしみる定番の音楽
そして寄り添う恋人たち
今年もやって来たクリスマスシーズン―
『一大決心』
「はぁ?あ、あんた何言ってんの?」
深夜にかかってきたテレビ電話からの言葉にぼんやりとしていた頭が一気に覚醒していく
「だから27日の飛行機でNYへ来いっていってんだよ!」
「27日って明日じゃん!無理だよ、バイト入ってるし!」
「お前またバイトかよっ!俺に逢いたくねーっつーのか!」
「そ、そんなこと言ってないじゃん!」
「じゃあ決まりだな。迷う必要なしっ!」
逢いたくないって否定しなかったことがそんなに嬉しいのか画面に映る道明寺の顔に満面の笑みが広がる
「いや、だからね…」
あたしがもう一度何が問題か説明しようとしたところで例のボイン家庭教師の声が聞こえてきた
「じゃあまた連絡すっから。おめー何があっても絶対来いよ!」
「ちょっ!道明…!」
相変わらずの強引さのまま勢いよく切られたテレビ電話の黒い画面が目に飛び込み
「あんのバカ男〜!」
アパート中の人間が目を覚ますんじゃないかってくらいの大声であたしは叫んでしまった
事の起こりは…たぶん1週間前
秋ごろ今年のX'masは帰国できるかもって話していた道明寺だったけど
結局どうあがいても回避できないX'masパーティーに出席することになり深夜の電話で謝ってきたのだった
まぁあたしとしてはX'masに帰ってくるなんてことは絶対無理だろうって確信していたからたいしてショックじゃなかったんだけど
あいつは一年前から「来年は絶対日本に帰る!」って豪語していて、そのつもりでスケジュールも早々から調整していたらしい
「あんだけ予定は入れるなって言ってたのによ!」
「仕方ないじゃん。X'masなんてもともとそっちが本場なんだし。あたし気にしてないから」
「俺が気にすんだよ!」
「だってあんたX'masなんて行事興味ないでしょ」
「お前がきょときょとしてっからだろーがっ!」
「き、去年のこと?それはもう謝ったじゃん!」
「お前今年も類と過ごしたらただじゃおかねーからなっ!」
「分かってるわよ!」
別になんの意味もない
X'masを家族で過ごそうとしていたあたしの家になんの予定もない類が遊びに来てただけなのに
野生の勘が働いたのかあいつが6時に目覚めてすぐ電話かけてきたりするもんだからバレちゃって
そりゃーもう…なだめるのに苦労したっていうか
喧嘩の原因の類は全く気にした様子もなくパパと食後のトランプをしてたりしていて道明寺はもう血管切れそうで
結局ぎゃあぎゃあ言い合って『来年は絶対俺と過ごさせるからなっ!覚悟しとけよっ!!』と青筋たてたまま電話を切った道明寺
いまだに類との事でいちいち怒る道明寺には呆れるけどそれが原因で今年のX'masに照準を合わせて必死に予定をやりくりしていて
でもやっぱり無理だったからって謝ってきてくれたのはすごく嬉しかった
「ねぇ、X'masはあんたが帰ってくるまで無理だって分かってるし、今年は絶対類とは過ごさないからさ。機嫌直してよ」
「…でもお前好きなんだろ?X'mas」
「あの雰囲気が好きなだけで恋人と一緒に過ごしたいとかそーゆーんじゃないから気にしないでよ」
「…でもせっかく逢えると思ったのによ…」
すごく残念そうにはぁーとため息をつく道明寺の気持ちが嬉しくてつい本音をいってしまったのがまずかった
「…そうだね…あたしも逢いたい…」
いつも素直じゃないあたしのその言葉に驚いて顔を上げた道明寺の目が一瞬にして輝きを取り戻す
「よしっ!逢うぞ!!」
「えっ?」
「待ってろ!お前の願い叶えてやるっ!」
「えっ?いや、道明寺?」
「俺様に不可能はねーからなっ!じゃあ待ってろよっ!」
「ちょっ、ちょっと…!」
電話をかけてきた時とは真逆の楽しげな声色のまま一方的に電話は切られて
それから一週間なんの音沙汰もなくてさすがにあたしが痺れを切らしていた今日かかってきた電話の第一声が
「27日9時発のNY行きチケット手配したから」
だった