SHORT-STORY
□あの日、ふたり
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「まただ…また!どうして…全システムに異常は無いのに!」
研究室の中に響き渡った、エラーを知らせるブザーの音。
休む間もなく聞こえるパソコンのキーを叩く音。
「正一…」
「くそ、何が原因なんだ…!」
名前を呼ぶのは三回目。
集中すると何も聞こえなくなる事は、よく知っている。
そして、仕事をし始めると休憩もせずに無理をしてしまう事も。
小さい頃の彼と、何も変わらないのは嬉しいけれど
その背中はいつだって疲れているように見えた。
ブー、ブー、ブー…
「これでも駄目なのか…それなら次は…」
「…正一!」
「え?あぁ、愛実かい?」
やっとこちらに気付いた彼は、何時間かぶりにパソコンの画面から目を話した。
目の下にうっすらとクマが出来ている。
「少し休まないと」
「いや、あと一歩なんだよ愛実。あと一歩なんだ。だからもう少し…」
「無理しちゃ駄目よ。アイディアが浮かばないでしょう?」
「ありがとう…でも大丈夫、夕食までには必ず終わらせるよ」
そう優しく言われては駄目などとは言えない。
大人しく黙り、彼の手が届く範囲に温めたコーヒーを置いて、そっとしておく事。
それが今、彼にしてあげられる最善。
フッ、と目を細めてその場を立ち去る。
"頑張って"
そう、心で彼に言った。
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