SHORT-STORY

□あの日、ふたり
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「お疲れ様」

「悪いね、待たせて」

「ううん、いいの」



夕日は地平線の向こうへと沈み、月が光り始めた頃。

研究室のドアが開き、ぐぐっと伸びをしながら出て来た彼に愛実は駆け寄った。



「夕食はシチューで良いかしら?
正一に聞こうと思ったんだけど、邪魔したら悪いと思って」

「ありがとう、シチューなんて久しぶりだな。
早く食べたいけれど…ちょっと待ってくれるかい?
愛実に見せたいものがあるんだ」



そう言うと、研究室へと引き返す彼。

こっちだ、とばかりに手を引っ張られる。

その足取りはどこか、小さな子供のようで軽い。



「その中に私が入ってもいいの?
厳重にセキュリティをかけているのでしょう?」



大きな分厚い壁の前で尋ねてみる。



「今、セキュリティを外したから大丈夫。
それに、愛実に見せたいものはこの中にあるんだ」



重たい扉が開かれる。



「きゃっ…」



いつの間にか背後に回った彼は、静かに私の目を手で隠した。



「段差は無いから、僕に掴まってゆっくり前に進んでくれ」

「え?…あ、うん、わかった」



言われた通りに前に進む。

少ししてから扉の閉まる音がした。



「…?」

「大丈夫だよ。

さぁ、この辺りでいいだろう。
愛実の身長も計算したし…角度も問題ないはずだ、それに」

「正一?」

「あぁ、ゴメン。
よし、手を離すから…ゆっくり目を開けてくれ」



そう言うと同時に目を隠していた彼の手が離れて行く。

ゆっくりと、目を開けた。





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