企画&キリ番

□お願い置いていかないで
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「ごめん、別れて」
「………どうして?」
放課後、彼の待つ応接室に来て、告げられたのはとても冷たい言葉だった。私が聞きたくなかったその言葉を彼はいつも通りの無表情で告げた。
「卒業したら、就職するんだ。それで、イタリアに行く」
彼は淡々と告げる。寂しくは、ないのだろうか。
「雲雀さんは………それでいいんですか?」
こんなに辛い思いをしているのは、私だけなのだろうか。彼と私が付き合い始めたのは二年ほど前。彼にとって私と過ごしたその時間には意味はなかったのだろうか。
「私は、嫌です。でも、雲雀さんの邪魔にはなりたくない」
絶対に別れたくない。でも、私がいたら駄目な理由があるのなら………。
「私は貴方の重荷になってしまいますか?私がいたらいけませんか?」
私は雲雀さんをじっと見つめた。彼も私をじっと見て、そして、口を開いた。
「重荷に、なるんだ」
ショックだった。彼が私にそんなことを言うなんて思いもしなかったからだ。彼はいつだって優しかった。風紀委員長として周りに怖い人だと言われていることも知っている。でも、いつだって私には優しくしてくれたのに………。
「君がいたらきっと僕は駄目になる。きっと君にも迷惑をかける」
迷惑なんてかけてもいいのに。でも、
「………そうですか。わかり……ました」
私は口を開いた。仕方がない。彼の重荷にはなりたくないから。
「ありがとうございました。雲雀さん。もう、終りにしますね」
「………っ、僕は、君が!」
「言わないで!!」
聞いたら、私の覚悟が無駄になる。だからもう、
「大好きでした、サヨウナラ」
私は応接室を飛び出した。そして、屋上に向かった。あそこなら中から鍵をかけられる。誰にも涙を見せずにすむ。


「ふっ……っう……」
出来るだけ声を押さえて泣いた。
今考えてみれば、私と雲雀さんとの付き合いはとても浅い物だったのかも知れない。それに私は素直になれない性格だから。言えなかった。素直に言えば良かった。連れて行って、と。私は彼に迷惑をかけるのが怖かったんじゃない。彼に嫌われたくなかっただけ。
「ごめんなさい……。ごめんなさい、雲雀さん」
聞こえる訳がないのに、言わずにはいられなかった。
「本当にごめんなさい」
言えば良かった。本当の気持ちを。もう一度チャンスがあれば……きっと言うのに。本当の気持ちを。
「嫌……です。嫌……なんです。雲雀さん……」




















__お願い置いていかないで__
(もう二度と言えない言葉)(素直になれなくてごめんなさい)

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