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昼食も終わり、お腹いっぱいになったなまえは残り少なくなったミルク入りコーヒーを味わう。
ギアッチョさんは一眠りしてくる、とリーダーに伝えてから自室に戻ってしまった。
リゾットがごみを回収し、カップの後片付けをしようとするのを見てなまえは洗い物をしようと提案するが、リゾットはそれを断った。
結局彼が洗い物をしている姿をなまえはテーブルから見ていることになった。
それからは何をするでもなく、日が暮れて行った。
したことと言えば、ソファーに座って何をしゃべっているかさっぱりなテレビを見ているか、ローテーブルに置かれたままの車の雑誌をパラパラと眺め見ているか。
気付いた時にはうたた寝もしていたみたいだが、基本ソファーから動くことはなかった。
リゾットはと言えば、ダイニングテーブルで作業をしているか、仕切られた部屋で作業?をしているかでなまえの近くから離れることはなかった。
そう、改めて気づいたがシロの能力は生物同士の意思疎通を可能にするのであって、テレビが相手ではその能力は使えない様だった。
電話は、どうなのだろう?相手は人だが、その音声は機械から発するものだ。…後で試してみよう
そうそう、シロのことだが彼は半分野良の子なので心配はしていない。基本自由にさせている。
あれ、説明が遅かっただろうか?
きっとあの狭い二階の窓から飛び出して、1匹のんびりと歩き周っているのかもしれない
…あいつだけ羨ましい。
帰ってきたら嫌がっていた猫用の洋服を着せてやろう。
「…なまえ」
「はい」
テレビのニュース番組から、視線をリゾットに注ぐ。
6人掛けのダイニングテーブルいっぱいに資料を広げているリゾットさんは、掛け時計を見ながら
「すまないが、俺はこれから出る。代わりにメローネがここに居るように言ってあるから、分からない事はそいつに聞いてくれ。」
時間は18時過ぎ。
外は真っ暗だろう。カーテンは開けていないが、もう差し込んでくる光はない。
…メローネって、誰だったか
今さら思ったが、ここの人たちはとても忙しそうだ。
今日1日リビングに居たが、ここでくつろいで行く人はいなかった。
まぁ、私がいるからってのも あるのかもしれないが
何も言わないリゾットさんだったが、居なくなられるとそれはそれで不安である。
この後何をすればいいのかとか、どこで寝ればいいのかとか、夜ご飯は自分で用意するのかとか…
そんな私の考えを読み取ったのか
「何も心配はない。後の事はメローネに伝えてある。」
そういうと彼は席を立ちあがって、広がったままの書類をまとめて仕切られた部屋へ入って行った。
ごそごそと中から音がして、出て来る頃にはもう出かける準備が整っている
「朝までには戻って来れるだろう。…じゃぁ」
彼は迷った末に最後の言葉を残して部屋を出て行く
扉を潜る前に「いってらっしゃい」と声を掛けたが、聞こえただろうか。
…っつうか、いってらっしゃいじゃなくないか?
何で見送ってるんだろう、私。
未だ自分のポジションが分からず、言葉に悩む。見送るような間柄じゃないし、それより拉致られた身ですし。でもお昼ごはんとか良くしてもらって…いやいや!
うーん、と頭をひねっていると
「その言葉、久しぶりに聞いたなぁ」
突然後ろから違う人の声が聞こえて来てなまえはこらえきれず「わぁ!」と声を出してしまった
「ふふ、驚かそうとした訳じゃないんだけど」
ソファの背もたれ越しに顔を覗かせてきたのは、朝方コーヒーをくれたあの人だった。
(あ、そうだ。この人がメローネさんだ)
背もたれから乗り出すように覗いて来るメローネさんに、「すみません」と謝るとニコリと笑ってくれた。
ここで会った人たちの中ではずいぶん優しそうな雰囲気をした人だなと思った。
メローネさんはすっと身を引くと、私の座っているソファーの反対側の肘掛けに浅く腰掛ける
人ひとり分空いた向こう側に座る彼は、「今度は俺が君を見張る番だ」と爽やかに言ってのけた
見た目と言ってることがちぐはぐだな、この人。
「よろしく…お願いします?」
「ふふ、よろしくか。拉致された被害者にしては随分な言葉だね」
メローネさんは目を細めて笑った。
それを聞いてはっ、と言葉をつぐむ。
(そりゃぁそうだよね、お願いするような事じゃないし、むしろ嫌そうな顔をするのが正解だったか)
がしかし、もう結論は出ている。
私はここから逃げる事は出来ないのだ。悲しいことに。だったらここでどうストレスなく円滑に生き抜けるかが肝心だろう。
端から見ればおかしな会話でも、こいつアホだと思ってもらった方がやりやすい。きっと
だからさっきの返答は多分合ってる。
「ところで、お腹は空いたかい?」
「…あんまり、ですかね」
「ずっと此処に居たからね」
「テレビ見てました」
ゆっくりできて良かったじゃないか、とメローネさんはほほ笑む。ギアッチョさんとは真逆の人だ。
ものすごく話しやすい。