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(ったく、リーダーの野郎は何を考えてんだ)

ギアッチョは自室のベットに仰向けで寝そべりながら、考える。

あんなどこにでも居そうな一般人をチームに引き入れるなど、到底考えられない。


どっかのチンピラのチームとは違って、ここは暗殺チームなのだ。

毎日毎日が殺伐としていて、気づいた瞬間には自分が死んで居るかもしれない

そんな所に、まだガキの女が一人。




ごろりと寝返りを打つ。

自室の電気は消してあった。外もまだ真っ暗で深夜独特の静けさが漂う。

くつろいではいるが、隣室の音を聞き逃すまいと耳だけはそば立てていた


隣には拉致してきたばかりの女がいるのだ。


自室に引き返す前にリーダーに言われた「彼女をどうするかはこれから決める。それまで監視を宜しく頼む」と

逃げ出そうとする素振りがあれば、すぐにでも行動がとれるように。


だが、まだ納得出来ずにいた。

(ただの一般人のガキだ。能力は使えそうだが、使い物になるのか。でもリーダーの判断だ。だからって…)


同じことを何度も何度も頭の中で往復させては、結論の出ない内容を持て余していた

イライラばかりが募る


時折、隣から聞こえる物音に身構えては力を抜く、その繰り返し


くつろげるはずもない。


俺だったら相手が寝静まる頃に逃げ出すだろう。
スタンドが使えない奴でも、きっとそうする。

相手は女だが、手足の拘束はない。部屋の鍵も開いている。窓から逃げるのは無理だ。人の通れる幅はない。

そうなれば扉から出て行くだろう。幸いぼろいアパートなので少しでも扉が開けば軋む音がするはずだ。


素人がやりそうな逃走方法をいくつか考えては、物音に耳を澄ました。




もうそろそろ夜明けだろうか…

重くなる瞼を必死にこらえながら、考える事にも疲れたので本棚から一冊小説を抜き出してまた静かにベットに腰かけた。


途中まで読んでそのままにしていた本だ。半分も読んでいない所で挟まっていた栞を取り出し、最初のページに挟んで読み始めた。




しばらくすると

「 …Sah ein… Roslein……」

隣から泣くようなかすかな声が聞こえてきた。


(何だ?電話でもしてんのか?いや、携帯は今リーダーが持っている)

本から目を離し、腕時計を確認した

am04:24 夜明けもそろそろだろう。



「…Roslein auf……」

それは歌っているように聞こえた。
1人囁くように口ずさんでいる。

英語でもない…どこの言葉だろうか
日本語か?


まさか口ずさんでいる歌を聞かれているとも知らず、隣の女はそっと歌い続ける。


…どこかで聞いたことのある曲調だった
どこで聞いただろうか。

もう本の内容は入って来ない。
聞こえてくる曲を思い出すのに寝ぼけた頭は精一杯だ。


「…Roslein, Roslein, Roslein rot,」


眠さも手伝ってか、中々はっきりしない
だが曲は知っている。






気付いたら自分も女の歌に合わせて、歌詞を思い出していた。

一曲で終わるかと思ったが、嫌がらせのように何度も同じ曲を口ずさんでいる

(…新手の嫌がらせか)


イヤホンでもして耳をふさぎたいが、生憎監視中だ。
もし部屋を抜け出されでもしたら、気付けない可能性がある。

壁を叩いて黙らせてもいいが…




すでに朝日の差し込んで薄ぼんやりと明るくなった室内。

天上をぼうっと眺めながら、また繰り返し始まった隣の子守唄みたいな囁きを聴きながら本を読み進めた。








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そして今だ。

あの時はしばらくしたら飽きたのか、女の囁きが終わってループから解放されたが
ずっと頭の中に流れる歌が止まらない。

キャッチ―なCMを見た日だって、ここまでは続かない気がする。


眠さで頭の中が曖昧になっているのだろうか。

そりゃそうだろ、昨日の薬の売人の監視が終わったと思えば今度は女の監視だ。

監視だらけじゃねぇか!

リーダーには多めの報酬をもらう事にしよう。あと残業代もだ。…出た事ねぇがな。




女の後頭部を睨むのをやめて、ふと手元に視線を落す。

そこには誰かの私物と書類が広げられたままになっていた

(何だこれは?)

黒地に金押しの花のマークがついた手帳… 女もんの財布に、携帯と、プロフィールが載った書類…

そこには、目の前にいる女の写真が載っていた。


(あいつの資料か)


家族構成と、学歴、出身地、年齢…

プライバシーのかけらもない情報が並べられている。
よくこの短時間で出揃ったものだ。

情報屋に思わぬ出費だな。
これだけの資料を短時間となれば、相当な料金だろう。

(まぁ、臨時収入もあったしなぁ)


ギアッチョはパラパラと紙をめくる。
ふと、一カ所で目が留まった


「んぁ?お前20なのか」

「えっ、はい」

「へー…」

「…。」

「…」


短い会話が終わる。


(へー、って何だよ!)

なまえは口に出そうになるのをこらえた。


(20って、俺と同い年じゃねぇか)

ギアッチョは資料を眺めながら思った。
まだガキだと思っていたが、まさか同じとは


最初に見た時は中学生くらいだと思っていたのに、正直20には見えない。

アジアンは年齢が分からねぇ
しかも日本人か…

あの防犯意識もかけらもない所だ。


前に誰だったか、聞いたことがある。
日本人ほど騙しやすい奴はいない。簡単に落とせる。と

(あっさり捕まったしなぁ)


日本と言う国をあまり知らないギアッチョだが、お人好しの国であることは知っていた。

文化には少し興味があったが、映画で見た程度なのでそれ程でもない。


「お前ほんと運がねぇ奴だな」と、言ってやりたい気持ちだが、軽口を叩けるほどまだ信用はしていない。

鼻で笑うのがせいぜいだった。





(え、今鼻で笑われたんだけど?)

座ってるだけなのに何故か馬鹿にされたような気がしてなまえは目を見開いた。

(なに?何かした?)


失礼極まりない態度に、これならポーカーフェイスでもリゾットさんといた方が何倍もましだ!


と、なまえは聞こえないようにそっと溜息を吐き出した。






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