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ソファーに腰掛けながら、なまえはコーヒーの液体を容器ごとグルグルと回して遊んでいた。

一口は飲んでみたが、なかなか次が進まない。

甘党の私には苦すぎる。
せめてお砂糖2つとミルクが欲しい

黒のまだ湯気の立っている液体を覗き込みながら、そこに映った自分の目を睨みこんだ。

さて、リゾットさんから聞かされた話でも整理してみようか


観光するつもりで来たイタリアで、はい。捕まった。お家帰れない、お先真っ暗。監視生活。あれ? しゅうりー…



…先が続かないぞ。

子供でももっとマシな話を思いつくだろうに、悲しいことにこれがなまえに起きた現実なのだからそう文句を言わないでほしい。

誰が、って感じもするが。


リゾットさんは恨んでくれても構わないと言っていた。

…恨む、か。

今のなまえにはピンとこない話だった。恨むというより…悪いことをしてそれが見つかってしまって、座り心地の悪い気分というか…

私も悪いことしようとしてたし…まぁ、それに見合う罰かと言えば過剰な仕返しにも思う。


万引きで捕まって、終身刑を喰らわせられるような感じだろうか

だとしたらやっぱり行き過ぎだよなぁ。私怒っても良いだろうし、泣き叫んで一目散にこの場所から逃げ出して
も良いだろうに


…諦めがいいというか。バカなのか。
そう、さっぱりしてるのよ性格が。

ほんとのことを言えば、まだ実感が湧いていないのかも知れない。


いきなり知らない人に「お前今日から死んだことになってるから」って言われても「へぇそうっすか」ってならない??

あら、ならない?

…多分まだ分かってないのだ。
そのツケがいつか回ってくる気がする。今の呑気な状況を何倍も恨むほどのツケが



だが、こうしてソファーに腰掛けてコーヒーも頂いてる状況に危機感を持たない以上、きっと私はここから逃げることは難しいのだと思った。


だって無理でしょう?個人情報を握られ、スタンドも見られ、狂犬みたいなお目付け役に、屈強な男共…

ゲーム始めたばかりの主人公が、いきなりごろつき共が集まる酒場に放り込まれるようなものでしょう?

逃げられるわけもないし、その時点で色々と諦めちゃうんじゃないかな?



だったら、どう上手くここで生きていくのかを考える方が賢いのではないだろうか

死ぬときは死ぬとき。

拉致した人達は私を殺さない気がする。だって能力目当てに拉致…監禁か。したのだから殺しては意味がない。

私の能力を使われる日が来る。反抗すれば用無しだろうから、やっぱり長くここに居ることになる。



まだ全員ではないが、会った人達はそんな怖そうには見えな…いや、見えるな。

それでも、仲良く生きていかねば。
私が長生きするために。

今のこの状況のゆるさだから、1人になれる時間ももしかしたら、耐えていれば、あるかもしない。

仲良くなって、隙を生めるのか…

しかしそうなると、今のところ一番仲良くなれなさそうなのが…






突然ドスドスと誰かが降りてくる音が聞こえてきた。

そのままガチャっとドアの開く音がして、ギアッチョさんが入って来た。



なまえは彼を見て、少し身を硬くする

(一番仲良くなれそうにない人だ。)

…乱暴そうな人は昔から苦手だ。
巻き込まれるのも嫌だし、絡まれるのも嫌い

しかし人間関係をこじらせるのはもっと嫌いだ。

なので嫌いな人にも、わけ隔たりなく接することができるスキルはあるが…

無理な物は無理。



なまえは、キッチンに入って冷蔵庫の扉を開けるギアッチョに「おはようございます」と声をかけた


「…あぁ」

冷蔵庫の扉でギアッチョさんの上半身は見えないが、一応返してはくれた

彼は中から水の入ったペットボトルを取り出すと、カリッと開けて中身を流し込む

飲みかけのそれをまた中に戻すとパタリと扉を閉め、カウンターキッチン越しになまえを睨みつけた


本当は確認しているだけであって睨んでいるわけではないのだが、寝起きで顔つきがいつもより険しい

しかし、そんな事をなまえは知らない。



なんでか睨まれている状況に彼女は体を硬ばらせる
愛想笑いを浮かべてみるが、心なしか少し引きつってしまっている感じがした。


ギアッチョはむすっと眉根を寄せ、ズカズカとダイニングテーブルに向かいどさっと腰掛ける。

それと同時になまえはゆっくりとテレビの方へ体を向けた。



あの視線にこれ以上耐えられる気がしない…
寝起き直ぐにしては、精神的にハード過ぎる



ギアッチョの座った位置からは、ソファーに座るなまえの背中しか見えなかった。

一方なまえは背後から感じる視線の鋭さに、息が詰まりそうになる


(彼が監視役になるんだもんなぁ…まるで私が罪人みたいな気分になってきた。…いや、罪人あっち!)


そのまましばらく無言が続く…


時折コーヒーを啜るが、正直緩いのか冷たいのかも分からない




気まずい…




なまえがそわそわとしている中、ギアッチョは今日起こった夜のことを思い出していた





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