long

□6
2ページ/2ページ



なんの返答も帰ってこないなまえを不思議に思ってリゾットが顔を上げると、彼女はすでに夢の中のようだった。

項垂れてすやすやと眠っている。

(…昨日の今日だ。寝れなかったのだろう)

リゾットはもう一度強張った目頭をもみほぐす。

なまえの報告を受けてから今まで、まるで嵐のようにやることが重なって、正直疲弊していたのだ。



あの時、プロシュートからの報告を受けリゾットは確信した

彼女のスタンドは、今後の計画に必要不可欠になると。

しかし一般人ということもあり、ましてやまだ20の学生だ。

そんな彼女をこの世界に引きずり込んでいいものか、と。

リゾットは散々悩んだ。

しかし一般人の一人とチームのことを天秤にかければ、傾いたのはチームの方だった。

彼女には犠牲になってもらう。
私達の、ボスに反旗を翻す計画のために。



…ただ、僅かながらではあるが良心の呵責もあった。

あの時ホテルでプロシュートとギアッチョ達に会わなければ、彼女はあのままイタリアを観光して国に帰っていたことだろうに

彼女の将来を奪った責任は重い。


少し話しただけだが、本当にどこにでもいる一般人だ。

こちらの世界のことなど微塵も知らないのだろう。

彼女の纏う雰囲気が、懐かしい平和のほのぼのとした感じがしてつい昔のことを思い出してしまう。

…だが、決まったことだ。

チームのメンバーにはすでに話もつけて、渋々と言った奴もいたが了承も得ている。


引き入れた以上、なまえの将来の責任を持たなければ。

なるべく不自由はさせないよう、あいつらにも言って聞かせておこう

リゾットは机上の書類をまとめ出す。


すると、リビングの方から

「リーダー、その子寝ちゃったの?」
「寝たのか?」

ソルベとジェラートが背もたれ越しに、振り向きながら聞いてきた。


この二人はなまえを引き入れる話をしたら、すぐにokを出してきた

助かる話だが、何を考えているのかはいまいち分からない


「あぁ。」

「そこじゃ可哀想だよ」
「俺たち部屋に戻るから、ここに寝かせてやれよ」

彼らはぴったりとくっついたまま、テレビの電源もそのままに階段に向かって行った

通り過ぎ様、なまえの頭を撫でていく

(暇つぶしにしか思っていないのだろうな)

そんな感じがした。




リゾットはそっと、先ほどまでソルベとジェラートが腰掛けていたソファーに#NAME2##を横たえる。

起こさないように、慎重に。

内心リゾットは複雑だった

彼女には言い表せない程に憎まれ嫌われるだろう。だが、それでも彼は優しく接しようと決めた。

そんな事で彼女への罪悪感が清算されるとは思っていないが、せめてもの償いに


何か腹にかけてやろうと辺りを見回していると、仕切られた部屋からプロシュートが毛布片手に出てきた

「ほれ」

「すまない」

リゾットはそれを受け取ると、そっとなまえにかけてあげた

肘掛に置いてあったリモコンを手に取り、テレビの電源を落とす。

なまえは身じろぎをして横向きになる。すやすやと寝息が聞こえてきた

それを見下ろすリゾットとプロシュート。



「役に立つのか、そのお嬢ちゃんは。人も殺したことのないシャバの人間が」

「なまえにはなるべく俺たちの深い所は見せないようにしよう。軽い仕事からこなしてもらおうと考えている」

「書類整理とかお使いか?ハッ!共同生活になるんだ、隠し通すには限界があるぞ」

「隠し続ける必要はない。…最終的には役だって欲しいのだ。そこは皆と相談しながら徐々に慣らしていこう」

「…慣れるかねぇ」


ま、あんたの判断に任せるよ。とプロシュートは腕時計をちらりと確認して部屋を出ていった。

彼の任務の時間なのだろう。


リゾットは引き続き仕事に戻った。





―――――――――――


「リーダー、終わったぞ」

ガチャリと部屋の扉を開けながら、いくつも髪を束ねる黒髪の男、イルーゾォが帰ってきた。

うんざりした表情で頭をかいている

「あの野郎、無駄な時間稼ぎのおかげで帰りが遅くなっちまった…って、なんだこの壁」


イルーゾォは入ってきてすぐ左にあるチープな作りの壁に気付くと、コンコンと叩いてみる

「あぁ、急遽そこだけ仕切ったのだ」

「なんでまた」

「新入りが入ったものでな。都合の悪いものはその部屋に押し込んだ」


いつもなら、キッチン横のラウンジで仕事をこなしているであろうリーダーが、食事を取るテーブルで仕事している

「…裏の業者はほんと仕事が早いねー」

「急ごしらえだがな」

へー、とイルーゾォはそのままソファーに腰掛けようとして、背もたれに手をついた瞬間固まった。


(…誰だ。寝てんのか?)

「あぁ、そこに新入りが寝てるぞ」

「いや、遅いよ!もう少しで踏む所だったぞ」


リゾットは書類から目を上げることなくさらりと言ってのける

イルーゾォは座れないソファーを名残惜しそうに見つめ、空いてるリゾットの向かいに座った。


「…話には聞いてたけど、まだ子供じゃないか。中学生か?」

「いや、二十歳だそうだ」

「え!? …さすがアジアン。言葉通じんのか?」

「そこは問題ない」

へー、と
イルーゾォは一つ一つ髪留めを解いていく

「…使えるのか?」

「徐々に慣らそうと思っている」

「…。ま、リーダーが決めたんなら文句はないけどさ」


イルーゾォは振り返り、背もたれで隠れてしまっているなまえを見ながら

「寝てくるわ」

と、上着を椅子にかけて自室に戻っていった






pm 1:34


そろそろ食事にでもするか、と席を立つ。

リゾットはキッチンに向かい、ケトルに水を張りコンロにかける。

何かないかと冷蔵庫を漁りだした


いつもなら外食で済ませているのだが、今日からはそうも行かなくなるのだろうか

ちらりとソファーの方に目をやるが、起きる気配がない。

なまえのパスポートは日本国籍のものだった。

日本人の彼女の口に合うものか…

と漁ってはみるものの、外食ばかりのこのチームの共同冷蔵庫には昼飯になりそうなものは何もなかった

水と酒、つまみに、調味料ぐらい

(ふむ、困ったな)

顎に手をやり考えていると、ケトルの湯が沸いたようで火を消す。


締め切ったカーテンからは外の様子は分からないが、透けて室内に降り注ぐ光を見ればきっと快晴だろう。

そろそろ春も近づいてきているので、程よく暖かいはずだ。


リゾットはなまえの飲んでいた机上の冷めたマグカップをシンクに置いて、新しく2つ取り出す。

インスタントコーヒーをスプーンで掬い、カップの中に移す
沸いたお湯を中に注いでいると、もぞもぞと人の動く音が聞こえてきた


「…お腹すいた」

なまえはむくりと起き上がると、まだ眠たそうに目を擦る

そしてキョロキョロと辺りを不思議そうに見渡した

「起きたか」

リゾットが声をかけると、びくりと肩を震わし目を擦る手もそのままに固まってしまった

「…驚かせてすまない。コーヒーを入れたのだが」

「え、あ、い頂きます…」

なまえはよそよそしく立ち上がって、毛布を畳みソファーに置く。

リゾットはスプーンで粉を溶かしながら「そこで良い」と声をかけた

しなしなと、大人しくソファーに腰掛けるなまえ。


リゾットは入れたてのコーヒーを2つ持って、なまえの背後に近づき後ろから片方のマグカップを差し出した

「あ、ありがとうございます」

「いや。あぁプランゾに何かあればと思ったのだが、生憎何もなくてな。」

「お昼ですか?そんな、気にしないで…」

ぐー

…。

タイミング悪くなまえのお腹が鳴る。

(…んああ!!?最高に恥ずかしい!なんでこのタイミング!!?)


閉口したまま顔を赤くするなまえを見て、リゾットは本人にしかわからない程度に口の端を釣り上げた

「遠慮することはない。なまえには不自由はさせないといった。全て任せてくれ」

「いや、でも…」

「何か買ってこよう。今日はゆっくりしてくれ」

リゾットは有無を言わせず仕切った部屋に入っていったかと思うと、上着を羽織ってすぐに出て来た
そして携帯で何か入力したと思ったら

「すぐ戻る」

と出てってしまった。

「え、あ、行ってらっしゃい…」

おそらく聞こえていないだろうが、徐々に消え入りそうな声でリゾットを見送った

また一人ぽつんと残されたなまえは

(なんか、こんなラフな拉致生活があっていいのだろうか)

立ち上がってリゾットを見送った姿勢のまま、ずっと手に持っていたコーヒーを一口啜った。

淹れたての熱いコーヒーが、寝起きの頭を徐々にスッキリさせていく。


「…お砂糖が欲しいな」



.
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ