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1人ポツンと残された私は、何をして良いか分からず突っ立っていた
両手で包んだマグカップの暖かさが心地よい
(一様拉致された身なんだけどなぁ
こんな雑な扱いを受けるとは。)
ふと見たソファーに腰掛ける2人は、私を気にも止めていない。気がする
興味ないんだろうな
よく分からない状況下でも、寝ぼけた頭は都合のいいように状況を処理してくれる。
パニックにならないだけ有難たかった。
「ここに座ると良い。」
リゾットさんが声をかけた
私は彼の指差した先を見つめ、彼が腰掛けているダイニングテーブルの向かいに、恐る恐る座った
彼は机に書類や小物を広げ、気難しそうな顔をしている
手に持っていた、まだ湯気の登っているマグカップをコトリと机の上に置いた
正直一睡もしていないこの頭で、難しい話をされたら理解するどころか寝てしまう自信がある…
だって今日だよ?私が拉致られたの
今日の深夜に連れ去られて、そのまま質問攻めになって、夜が明けて今だもの。
リゾットさんの後ろの壁に、掛け時計があった
am 9:41
(え、もうそんな時間なの?
どうりでお腹空くわけだ)
ちらりとリゾットさんの顔を確認してから、視線がまだ書類に落とされているのを見てコーヒーを啜った。
程よく冷めた黒の液体は、苦味が舌に広がって眉をしかめさせる
「なまえ・みょうじと言うのか。」
「え?あ、はい」
「すまないが荷物を調べさせてもらった」
突然喋り出したリゾットさんは寝不足気味なのか、重そうな瞼を指で揉みほぐしている
あ、見たことあると思ったら彼の前に置かれているのは私の財布やパスポートだった
…もしかして眠らずに私の素性とかを調べていたのかな?
「スタンド能力も見せてもらった。…言いたいことは山ほどあるだろうが、追い追い解決できるよう努力しよう」
「…やっぱり帰れないんですよね?」
「そうだな。君は…なまえはここにいてもらう」
リゾットさんはまっすぐとこちらを見て言い切った。
不思議な目からは感情が読み取れない。
もともとポーカーフェイスなだけかもしれないけど
「…ずっとですか?」
「そうだ」
「私、そんなに悪いことしちゃったんですかね」
「…悪い事と言うよりは、運がなかったと言うのか…」
リゾットさんは慎重に言葉を選んでいるように見えた
見た目は怖いけど、思ったより優しい人なのかな
いやいや、拉致する犯罪者だから。
だめだ…眠さで頭が回らない
「……。全ては私の所為だと思ってくれ。なまえの行動も、今後のありようも、全て私に決められる。…恨んでくれて構わない
だが、なまえのスタンド能力はとても素晴らしいものだ。私はその能力が欲しいばかりに君を拉致して、手元に置いておきたい」
そしてチームの為に生かしたいのだ、と彼は言った。
まっすぐな物言いだが、何だか言葉に引っかかるものを感じた。
たぶん、本心は違うことを思っている
きっと隠してることがある。
でも暗殺を生業にしてる人となんて話したことないし、彼が嘘を言ってるのかどうかなんて分からない…
いつも頼りにしてる私の直感が全く役に立たない
まっすぐ見つめるリゾットさんの目が怖くて視線を机の上に落とした。
「…でも、私、期待に添えないと思います。一般人だし、ただの学生だし」
「私の所為で君をここに閉じ込めようとしているのだ。何も思わなくていい」
きっと何言ってもこの状況は変わらない気がした。
逃げ出したとしたら、今よりもっと厳しい処遇を受ける気がする。
…この人達に捕まった時点で私の未来は決まったようなものか
考えるだけ無駄かな
「…ほんと、運がなかったんですね。私」
「…。なまえが生活するにあたって、なるべく不便はさせない。なんでも言ってくれ。その代わりなまえには此処に居てもらうことになる」
私は何も考えず頷いた。
もうなるようになれ、だ。
その後リゾットさんからは、私の監視役はギアッチョさんだと教えられた。
私のスタンドは接近戦向きじゃないので、いざという時の対処が取れない
その点ギアッチョさんのスタンドは短距離での戦闘が得意みたいなので、適任なんだそう
その話を彼はすでに聞いているみたいだ。
…あの狂犬みたいな人がお目付役か
なんか、もう既にうんざりしそう
個室も与えられるみたいで、私が寝れずに過ごしたあの部屋が自室として与えられた。
チームに加入するから試験がどうとか、給与の話とか、今後の動向とか
色々話してはくれたが、もう右から左に話が流れていく…
今になってようやく眠気が来たみたい
霞む視界の中、リゾットさんは書類に目を落としているのでこちらに気づいていない
あーー
だめだー…
そのまま首をゆっくり落として意識を手放した
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