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「んぁ……」
「ようやく起きたか」

霞む視界をぼんやりと感じながら、徐々に視界が広がって目を覚ました

ずきずきと痛む頭をさすりたかったが、腕が上がらない…

まず手足が動かない事に疑問を持った。



動かそうとすると体も揺れる。
そこで更に疑問符が湧く

( 動けない?)

頭痛のする頭で考えようとするが、辺りが薄暗く、まだ夢の中なのかとぼんやりしてきた

〈 なまえ、動くな〉

今度はシロの声が聞こえてきた。
ようやく視界がはっきりしてくる


目に飛び込んできたのは、しゃがんだままこちらを睨むあの天パのギロリとした視線だった

「ひっ」
「あ?人の顔見て驚いてんじゃねぇよ」

男はぴきっ、と青筋を立てる

(いや、起きて一番に睨み顔見たら誰だって驚くでしょ…しかもその近さで!)

さっと目を逸らし、改めて自分の体に視線を落とせば、なるほど。縛られてる


…これ死んだな。
映画でもよく見るぞ。こうなった主人公が無傷で生き残る映画なんて私はしらない。

「お前にいくつか質問がある。嘘をつけば殺す。スタンドを出しても殺す。気に食わねぇ態度をとっても殺す」

結局殺されんのかよ
何してもダメじゃん


心の中のつっこみも虚しく、私は静かに深呼吸をする。


「…分かりました」
「まず、だ。お前スタンド使いか?」

目の前の天パは腕を組みながら私を見下ろす。その数歩離れた後ろに扉に寄りかかる金髪の男とパイナップルが居た。

何処かの個室らしく、少なくとも最初にいたホテルではなさそうだ。
なんか古そうだし、狭い。あと薄暗いし

明かりといえば、頭上で心許なく光っている電球と、申し訳程度に壁に付けられた照明ぐらいだ


目の前の天パに怒られない程度に視線を泳がし、状況理解に努める。
少しでも情報が欲しい

シロは金髪と並んで立っているパイナップルの肩の上にいた。じっとこちらに視線を向けている。

色々とシロに聞きたいことがあるが、声には出せない。
シロからは一方的に来るが、私からは声に出さなければ通じないのだ

シロは話せはするが、心を読み取るようなエスパーじみた能力はない。

助けを求めるようにシロを見るが、目の前の男がそれを遮るように立ってきた。



「きょろきょろしてんじゃねぇぞ、どうなんだよ」
「…はい。」
「そのスタンドで知ったのか?あの男のことを」

あの男?あ、薬の売人のことか

どうやら、直ぐに殺される心配はなさそうだ。

質問の内容に、この縛られた状況からしてまだ私には生かす価値があるみたいだ

溜まった疑問を解決したいのだろう。

徐々に頭痛も治まって、頭が回る様になってきた


「そうです。」
「お前…妙に落ち着いてんな。なんか企んでんのか」
「いや、死に際くらい大人しくしていたいなーなんて…」

あはは、と力無く笑うと後ろに控えていた金髪がぷはっ、と笑いだした


「肝の座ったシニョリーナだな」
「どうも」
「無駄話してんじゃねぇよ!」

天パは唾を飛ばした


「だったら殺されるお前に、今更嘘をつく理由なんざねぇだろ。正直に言いな、お前のスタンドは何だ」

私はスタンドを出した。
隠すこともなく。どうせ死ぬのだし

あー、死ぬ前にシュークリームが食べたかったな


私の背後に現れたスタンドに一瞬天パは身構えたが、攻撃してこないのを見て少し力を抜いた

「それがお前のスタンドか」
「はい。…可愛いでしょ?」
「知るか」

ジロリと睨まれたが、すぐに私のスタンドへと視線を変えると能力の説明を求められた。

そこで私は攻撃しないのを約束に、パイナップルの人を使って実演しようとする

「ペッシ、来い」

男に呼ばれた、ペッシって言うんだ
ペッシさんはおどおどと彼の横に並ぶ


「えっとですね…私のおでこ見て欲しいんですけど…」
「おでこ?」
「額…んー」

ペッシさんは警戒した様子を見せながらも、額に視線を寄越す

スタンドを現したいが前髪が邪魔だ。
これでは出せない

注意深く見つめる彼に「ごめんなさい、えっと、私の前髪どけてもらって…いいですか?」とお願いしてみる


いや、私を拉致した連中にこんなこと言うのもおかしいのだけど…

もうやけくそ感覚だ。どうなっても構わないという気分になってきて、逆に緊張感が消えていく

私のスタンドの眼は大きさの調節なんてできない。大体手のひらぐらいの眼の大きさだから、ペッシさんの立った状態から見える範囲だと現せられるのはおでこくらいだ。


彼は一度ギアッチョさんに目を向けたがなにも言わないので、恐る恐ると右手で私の前髪を横に流してくれた


すかさず私は額に眼を出現させ、それと視線の合ったペッシさんは夢へと落ちていった。

どう、と彼の体が私の横をかすめ床に倒れる

出現したスタンドの眼はゆっくりと瞼を下ろし、そして跡形もなく消えていった


「なるほど。お嬢ちゃんのスタンドと目が合えばそれでいいのか」
「はい。…彼大丈夫ですかね?顔から倒れていったんですけど」
「気にするな」

金髪は壁に寄りかかりながら手をひらひらさせて答える

天パは「それで?眠らせるだけか?」と鼻で笑いながら聞いてきた。


私は少しむっとしながら

「眠らせてからが私の能力なんです。他人には見えないけど、私のスタンドは夢を操るんです。」
「夢?」
「こんな事もできますよ」


私は目を瞑り、ペッシさんの夢の中に入っていった

そして過去の夢を探り、彼のトラウマを見つけ出し今見ている夢とすり替えた。

数倍怖くなる様に編集して、自らの目を開ける。

「ほら」

するとその瞬間、彼はもの凄い悲鳴を上げて飛び起きた。

泣きべそをかきながらバタバタと部屋の隅にすっ飛んでいき、収まりかけていた部屋にまた埃をまき散らす。
彼はガタガタとうずくまりだした。まるで影に怯える子供のように

あ、ちょっとやりすぎた…


「…お前、何をした」

天パはペッシさんの姿を見て驚き、さっきまでとは違うピリッとした雰囲気で聞いてきた

さらに警戒された気がするんだけど

「…ペッシさんのトラウマを数倍濃くして見せたんですけど…ごめんなさい、やりすぎました」

彼はまだ虚ろな目でガタガタと震えている

…後で薄めてあげよう

「ほぉー、で?夢いじくって終わりか?」
「…ペッシさんの記憶も見てきました。彼の部屋って真向かいのお部屋ですよね?」


これには金髪も天パも驚きの顔をする

「…他に何を見た」

視線を険しく天パが聞いてくる
その視線に恐れおののきながらも、開き直っている自分もいるので負けじと睨み返しながら

「特に。少ししか弄れなかったですし、人の記憶は余り見ない様にしてるんで」
「…なるほどな。これで話が見えてきた」

金髪の彼は片眉を上げて得意げな顔になった

「そのお嬢さんのスタンドを使えば隠しものも一発で分かるっつー事だ」

金髪は顎をさする。

「お前はあの金をどうするつもりだった」
「…どうするも。ろくな人じゃなかったみたいだし」

言葉を切って肩をすくめてみせた
改めて横取りするつもりでした。なんて言えない




「…ほぅ」

突然聞き覚えのない声が聞こえた。

この部屋の誰でもない声は、低くて、感情の感じ取れない無色みたいな声音に思えた


「どうすんだリーダー。俺はどちらでも構わねぇぜ」

金髪は懐からタバコを取り出すと、一本口に咥える

天パは苦そうな顔をしていた


「お前は、死ぬ事に未練は無いのか?」

姿の見えない声は、悠々と聞いてくる

どこに向かって答えればいいのか、不審に思いつつも取り敢えず答える

「死ぬ時は…死ぬ時ですから」
「家族や友人はどうするのだ」
「…仕方ないかな、って。申し訳ないけど」
「そうか。」

それから暫く沈黙が起きた






…私何か変な事言ったかな


少し不安になってきた頃

「分かった。ならば一度死んでもらおう」


まるでさらさらと砂が落ちるように、崩れた背景の中から男が現れた。

手品の様にゆっくり目の前に現れた男は、白髪でとても背が高い

見上げると視線が合った

不思議な目をした男は、すっと手を持ち上げ私の方に伸ばしてきた


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