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なまえは頭が真っ白になった。
おもむろに右手の親指の腹を噛み出す

自覚はないが、彼女の考え込んだ時に出る癖だ。

(えっと…どうしよう。)

なまえを悩ますのは、足元に倒れて動かないこの男のことで
何をすればいいのか、とうしてこうなってしまったのかを、見下ろしながらひたすら考えていた。


事の発端は、一度この部屋を去る時にとっさに売人のルームカードキーをポケットに仕舞ってしまったこと。

大きな声では言えないが、ちょっとしたお小遣い稼ぎのつもりで…

みんなが寝静まった夜中に、中に入り込み、スタンドを使って得た記憶で金庫を…

その…中身をね?
ちょっと!ちょっとだけよ!!

やってることはクソ野郎な訳だし、自業自得みたいな感覚で…



と、思っていたら突然窓から男の人が現れた。

向こうが驚いている隙に、咄嗟にスタンドで眠らせてしまったのだが


いや、誰だよこの人。

何でこんな夜中に窓から入ってくるんだ?
旅行客狙いの盗みか?

ん?でもこの部屋あの男のだし
じゃあ、あいつに用があって来たんじゃ?

…あれ?私もしかしてやばい状況に居るんじゃ??


ベットを見やれば、売人の男はまだすやすやと寝ている。


意を決して足元に倒れこんだ男の肩を掴み、起こさないようそっと、ごろりと寝転がした。

突っ伏していた顔が露わになる。


(っ!えぇー!何この美形?! 鼻高!まつげ長!え、怖!)

見た事ない美形に驚く
外人さんって、こういう所ずるいよね


って、いやいやいや!
今はこの状況をどうにかしないと!

この人が起きる前に目的を果たしてしまわないと!



私はそっとその場を離れ、足早に夢で得た隠し金庫に向かった。

売人は絵画の後ろに金を隠していたのだ。
秘密裏に壁を改造して金庫を埋め込み、そのカモフラージュに絵を重ねていた

風景の描かれた絵を外し、現れた金庫の数字板に番号を打ち込んでいく。

夢から得たその情報は、確かに記憶であり大丈夫だとは思うけど

…開きますように!

最後のボタンを押すと、カチリ
扉が開いた。

中にはぎっしりと札束が詰まっている


(……やったぁぁぁ!)

全力で、ジェスチャーで喜びを表す
これ凄い!ちょっと引いちゃうぐらいにすごい!

1人わぁわぁと喜んでいると

「動くんじゃねぇぞ。動けば殺す」

高く掲げた両手がピタリと止まる。
…背後から知らない男の声がかけられた

今まで聞いた事のない、低くて、恐ろしい
殺意でも現したような声に私は動けなくなった



「てめぇ、何者だ?何でソレを知ってる」

声からしてそう歳は取っていないだろう。だが声だけでは何もわからない…

(どうしよう)


ここは日本人特有の「あいどんといんぐりっしゅ」で乗り切るか、それともスタンドを食らわすか…

経験のないこの緊迫した状況にぐるぐると思考を巡らしていると、「チッ、聞いてんのかぁ?!おい!」と何かを蹴飛ばす音が聞こえて一瞬で身がすくんだ


「…あ、あの」

とりあえずここは日本人アピールは止めて、交渉に移ろう。

理由も話せず死ぬなんてまっぴらである。

せめて死ぬなら男にも通じる言葉で、罵ってから死にたい。

ゆっくり、ゆっくりと足を動かし男に向きなおる。

後ろには水色の天然パーマ?な赤縁眼鏡の男が今にも喰い殺さんとばかりにこちらを睨んでいた。


(…怖。え、怖)

初めて向けられる殺意に冷や汗が背中を伝う

これではまるで蛇に睨まれた蛙…

逃げ切れ…る訳ないか?


「名前は?」
「…。」
「あぁ?!」
「…や、山田 花子」
「どこの者だ」
「一応、旅行客なんだけど」


みょうじ なまえです、なんて本名晒せるか!
この状況になってもまだ逃げられると諦めきれない

男は訝しげに眉根を寄せる。

まぁ何処ぞの知らない日本人が、こんな夜中にこそこそと金庫前で喜んでれば怪しいですものねぇ

男はじり、と間を詰めてくる


距離は10m程。
私のスタンドの発動距離は、この眼がはっきり見える距離でないと意味がない…

もう少し近寄っても欲しいが、来て欲しくもない

だって怖いし。


んあーーー!!
どうしよう!!!

距離が徐々に縮まってくる

9m…8…5…


残り3mほど残して男は立ち止まった。
…警戒してるなぁ。

遠くからでも凄かったのに、こんなに近ければ向けられた殺意もダイレクトに伝わってくる…

(何かもう身が裂けそうだよ。)


目線なんて合わせられないから相手の手元ばかり見ていた。
凶器は持ってないみたい

舌打ちが聞こえ「誰が信じんるんだ?旅行客だってよぉぉぉ」

さらに眉間にしわが寄り、歯もむき出しでまるで狂犬だ

「で、ですよねぇ」
「この俺をナメてんのか?あ?」
「まさか…」

もごもごと答えていると、それがしゃくに触ったのか「あぁ!!?」と怒鳴られてしまった

「こっちを見やがれ!」

はっ、と私は男に目線を合わせ…



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