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私はすうっ、と深呼吸をした

(あぁ…なんていい天気だ。)

まるでペンキでもぶちまけたように雲一つない晴天と、涼しいく湿気の少ない微風に、見惚れるほどのこの風景…

さすが外国!
さすがヨーロッパ!
さすがイタリア!

ついに夢見た国にたどり着いたのだ。私はスマホを取り出し一枚上陸記念写真を撮ると、展望台を降りて荷物を受け取り空港を後にした。


ついに念願のイタリアだ!

きっかけはテレビで見た旅行番組。

イタリアの歴史から美術館、食事、生活…
何だか直感的に惹かれてしまって、春休みを利用してきたのだ

この日のためにどれだけやりくりして来たか…涙ぐましい努力を思い出して感慨に握りこぶしが震える。

そうそう。みんな、パスポートの申請は早めにしとけよ!私は危うく飛行機に置いていかれる所だったから



荷物を引きずりながらロビーを出て外に出ると、直ぐにタクシーが沢山並んでいた。

今回はツアーではなく、個人旅行だ。
こんなクソガキ1人で外国旅行だなんて無謀だと思われるかもしれないが、そこは安心してほしい。

しかし、まだ実感が湧いて来ないのか
道行く人を眺めては、何処もかしこも外国人ばかりで


(うぉぉ!やっぱイタリアに来たんだ!そこを歩く子供ですらかっこいいぞ)

ほぉーと見とれていると、右手のカゴから「にゃぁーー」と間延びした声が聞こえた


動物用ケースの窓から、退屈そうに欠伸をするシロの姿が伺えた

長旅にも動じないところがシロらしい…

「おつかれ、シロ。遠路はるばるイタリアだよ。付き合ってくれてありがとね」

気にすんな、とでも言いたそうにシロはまた欠伸をした。


ほんとうは身軽に一人で来たかったのだけど、シロを残して長く家を空ける訳にもいかず仕方なく連れて来たのだ。

だが実を言うと、個人旅行の安心材料にはこの子も含まれている。


さてさて、早速予約したホテルで寛ぎたいのだけれど…

なんせ一人旅なんて初めてのことで、しかもここは見知らぬ土地、ならぬ国。

切符の買い方から、どのバスに乗れば良いのかなんて皆目見当がつかない…

(何だ…どうすりゃいいんだ?)

唯一の救いと言えば、言葉に困らないことくらいか。


この右手の籠の中で呑気に寝ているシロのおかげで、何処に行こうが言葉に困ることはない。

スタンド、という能力がある。

まるで守護霊のように一人一体、常に自分を守ってくれる。

まぁ強い弱いは本人の精神力的なところによるらしく、詳しくは知らないのだが…
どっかの学者にでも聞け。

とにかく何やかんやで、シロはそのスタンド能力でどこの国に行こうが、どんな生き物を相手にしようが言葉には不自由しないのだ。

簡単にいえば、思考を持つ生き物であれば人種、種族関係なく意思疎通がはかれる。

例えば人と猫は会話なんて出来ないが、シロのスタンドを使えばそれが可能なのである


現に私とシロがそれをしている。

何もアニメのようにシロが口をパクパクさせて人語を話すのではなく、頭に直接話を流し込んで来る感覚とでも言うか…

周りには聞こえないだろうが、シロがこいつと喋る。と思えば耳を塞ごうが彼の声が頭に聞こえて来る。

だから悪口なんか言われた日には、ノーガードでそれをじかに食らうのだ…
まったく、恐ろしい能力である。


シロがそのスタンドを発動させると、姿は見えないが私のスタンドに白い煙がまとわりつく。不快でもないし、邪魔にもならないし、軽くて霧ぐらいの濃さだから、それが発動しているという合図みたいだ。

スタンドを持たない相手では、人の目には見えないが足元から冷気のように白煙がまとわりついている。気付くか気付かないかの微かなものだ。

勿論私にもスタンド能力はあるが…
面倒なので後で。



さて、どうホテルにまで行こう…

スマホでそれとなく調べていると

「お嬢さん、何かお困りですか?」

顔を上げると、目の前に40代くらいだろうか?背の低い、小太りな男の人がニコニコと立っていた。

日本語で話しかけられたので少し驚いたが、そうだ。シロのスタンドか。

彼の足元からドライアイスが溶けた時に出る煙みたいな白煙が溢れている

「いえ、ただ… どうホテルまで行こうかなって」

困ったように笑えば、彼には「話せるのか!」と驚かれてしまった

私は苦笑する。
ほんとうはイタリア語なんて話せない。

喋っているのは紛れも無い日本語なのだが、シロのスタンドに覆われた私達は言葉が耳に入って頭で変換される頃には、聞き慣れた母国語になっているのだ。

だから側から見るとバラバラの言語をしゃべっているのに、なぜか会話が成立してる…みたいな

私はあらかじめスクショしておいたホテルの住所を男に見せた。

すると彼は不思議そうにそれを覗き込み、理解したくれたのかニカッと笑ってオーケーサインを出してくれた。







私は物珍しそうに、右ハンドルの運転を後ろの座席から眺めていた。

どうやら彼はタクシーの運転手だったらしく、少し疑ってかかってしまったのが申し訳ないほど良い人だった。

彼は「丁度僕もそっちの方に帰ろうと思っていたんだ」とタダで乗せてもらえることになった

しかし、一つ条件付きで日本の話をしてくれたら。との事らしいが

…それでも何だか申し訳ない


しかしイタリアに着いてすぐのこの幸運に、私はわくわくが止まらなかった

(あぁぁやっぱ外国最高!向こうからしたら私が外人だもんね!それで優しくしてくれてるのよね)


車窓から流れる見慣れない風景を眺めながら、ホテルの到着を心待ちにした。






「お嬢さん!お嬢さん!ほら、着いたよ。起きて」

…んぁ?

どうやらうたた寝してしまったみたいだ。長旅だったのが応えたのか…

霞む目を擦ると、何だか薄暗い路地の途中で、歩道に半分乗り上げて停車していた。


…何だこの密集した場所は。

車を降りて上を見ると日は沈みかけてはいるが明るい空がある。
なのに視線を落とすとやはり薄暗い路地だった。

今いる一本の車道を挟んで左右に高いマンション?が所狭しと立ち並んでいた。
色こそ白色に統一されて、窓の扉はカラフルに明るい色で塗られていたが


まるでハリボテのセットみたいだ

映画で使われるような雰囲気に少し不思議に思う。まぁこの辺ではこれが当たり前なのだろうけど。


荷物を出してもらい、目的のホテルの前でぼけっとしていると

「この辺、昼は静かだけど夜出歩くときは気をつけなよ。可愛いお嬢ちゃんに声をかけようとする輩なんて沢山いるだろうから」

おじさんは少し心配そうに声をかけてくれた。

「…まぁ、大丈夫です。ここまでありがとうございました」

お礼を言うと、にこっと笑って良い旅を、と帰って行った。


「眺めもクソもあったもんじゃねぇな」

さっきのわくわくも窄んで、シロのさっさと入れの鳴き声に私はとぼとぼとホテルの中に入っていった…


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