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「いいか、慎重に動けよ」

暗闇の中から声がする。
俺は何を今更、と小さく舌打ちをした


「んな事ぁ分かってんだよ。それよりお前のマンモーニの方に言ってやれ」

ちらりと視線だけを向ければ、その問題のマンモーニはおろおろと爪を噛んでいた。

まるで小動物のように奴の背に隠れながら、ブツブツと今回の作戦を振り返っている


「ペッシにはきつく言ってあんだよ。俺はお前のその短気さに言ってんだ」

ため息混じりに、奴はぴっちりと結われた髪を撫で付けた。

嫌味ったらしいその仕草に、さらにイライラが募る


(…だからプロシュートの野郎と組むのは嫌なんだよ)

ぎりっ、と歯軋りをした





今、俺達はバルコニーにいる。

比較的豪勢なホテルの四階。その角部屋に潜んでいるのだ

ここからの見晴らしは悪く、密集するように建てられたマンションやアパートなんかで風景は皆無。

唯一眺められるものといえば、眼下に伸びる一本の車道くらいだ


道沿いに建てられたこのホテルもだが、もはや見るもののない空気の入れ替えぐらいにしか使われない様な窓は、どの建物も閉め切られていて妙な統一感が出ている

まぁ見慣れた光景だ。


携帯を取り出し時間を確認する

あと少しで夜中の2時…

いつもこの時間に帰宅するターゲットは、まず電気をつけて真っ先にシャワーを浴びる。

俺たちが狙うのは、その出てくるタイミングだ


リーダーから言われてるのは件の隠し場所の把握と、それを奪い取る事。

対象の生死については依頼者から何も聞かされていない。場合によっては死んでも構わないという事だろう

つか、そういう事だ。


カーテンの閉め切られた窓辺で、ひたすら奴の帰宅を待つ

季節は幸いにもかじかむ寒さを抜け、ようやく暖かくなってきた頃だ。
こんな夜中でも薄着でいられるのでありがたい。

だが夜になるとやはり冷え込むのか、俺は気になる程ではないがペッシのやつが腕をさすっていた



しかし、こうカーテンを締め切られていては中の様子が分からない
まぁそこは長年の直感と観察眼で…なんとかなるだろ。


野郎はヤクの売人だ。
ギャングから買い取ったブツを他の安い麻薬と混ぜて、カサ増ししたもんを弱そうな奴らに売りつけている

まぁ女とか、子供とか、貧相な学生とか。

反抗されても何とかなるレベルの奴にしか売らねぇ

まったく、反吐の出る様な男だ。


しばらくイライラと待ち続けていると、月明かりが雲で遮られた時

ついに電気が灯った。

カーテン越しに淡い照明が確認できる

(ようやくお出ましか)

プロシュートの奴もニヤリと口端を吊り上げていた…


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