short

□映画館
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「映画見に行こう!」

なまえは突然机を叩いて立ち上がった。
机上のティーカップが大きく揺れる…

俺はまるで、間抜けのように返す言葉が見つからなかった

読みかけの本から顔を上げ、疑問符だらけの表情を向ける。

辛うじて出てきた言葉と言えば、「…は?」ぐらいであった


「だから、映画見に行こう!」

返事の無い俺に痺れを切らしたみたいな顔をして、先程の発言を繰り返した



外は快晴である。
温度も丁度良くて、湿度も申し分ない。

活発な彼女であれば直ぐにでも飛び出しそうな天気だ

そんな日に映画なんて…


なまえであれば、適当に男でも捕まえて遊んで来れば良いのに…

「…そこら辺の奴でも適当に連れて行けば良いじゃないか」

実際可愛いんだし、と 聞こえない程度に付け足す。

しかし彼女は不服そうに口を尖らせ「だって私モテないんだもん…」と口を尖らせて返してきた

(いやいや… それは鈍感なだけだろ)


今まで読んでいた本を閉じ、溜息を付いた。








「で、結局何の映画を見に行くって?」

俺は渋々ながらもなまえの説得に応じ、外出の準備を進めていた

(えぇと… 財布に携帯と…)

アジトのリビングをうろつく俺を嬉しそうに眺めるなまえは

「ホラー映画が見たい!」

と、まるで子供のように純粋な目で言われてしまった

ホラーって…

「…大丈夫なのか?」

「勿論! 目を隠すスピードは負けないわよ」

「見ないのかよ」

そんな事を自慢されてもなぁ


なまえは既に準備を終えている。

まるで俺が待たせてるみたいじゃないか…

情けないのか呆れたのか… 溜め息を吐いた俺に、なまえは首を傾げながら「どうしたの?」と聞いてくる


これじゃあ、まるで…
まるで恋人みたいじゃないか…!



今アジトのリビングには誰もいなくて、ただ暖かな朝の陽光が彼女の輪郭を淡くぼやけさせる

日本人である彼女の黒い髪は、俺なんかよりもずっと綺麗で
今は柔らかそうなチョコレート色に透けていた

白い肌には、胸元のペンダントが良く映えている…

滑らかで、きらきらと輝いていて、つい触れたくなるような…


そんな事を考えていると、じっと此方を見つめるなまえと目があってしまう

自分で先程の考えが恥ずかしくなり、彼女から視線を逸らした

(…なに考えてんだ俺)


彼女は不思議そうに首を傾げていたが、
俺は少し頬の温度が上がった気がして、何だか気恥ずかしかった

「さ、さぁ。準備も出来たし、行こう」

彼女はとびっきりの笑顔を返してきた


 
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