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□ショコラマフィン
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朝起きると、ほんのりと甘い香りが俺の部屋に漂っていた。
チョコだか砂糖だか解らない、甘ったるい匂いが朝一番に肺を満たす。
(…重い)
まるで朝食からケーキを食べさせられた様な気分だ。
俺はすっかりダルくなってしまった体をベットから起こした。
寝ぼけた頭と、足を引きずるようにしてキッチンへ向かえば、其処には上機嫌のなまえがいた。
楽しそうに、せわしなくキッチンの辺りをうろうろしている
(…いや、あれは何か作っているのか?)
少しずつ近づいて行くたび、甘い匂いが強くなっていく
これはチョコレートの香りか
「何をしてるんだ?」
朝起きの呂律の回らない口がなまえに聞いた
すると彼女は手元から目線を上げ、此方に微笑む。
「チョコの苦手なリゾットに食べさせ様と思って」
「…そうか」
俺はさも興味が無いとでも言いたそうに、近くの椅子に座り込んだ。
すると、つつっとなまえがコーヒーを運んでくれる
ありがとう、と言うと また微笑み返された。
暫くぼうっと外の景色を眺めていたら、コトリと何かが置かれた
視線をそれに注げると、目の前に焼きたてのマフィンがある
「…これは?」
横でニコニコてしているなまえに聞けば、「チョコマフィンだよ」とだけ言って、向かいの席に着いてしまった。
小さな可愛らしい紙のカップに、ブラウンの生地がたっぷりと詰まっている
よく見てみれば、中には小さなチョコチップも散りばめられていた
「…なまえ、チョコは…」
「分かってるよ」
彼女はフォークを二人分出してきて、焼きたてのマフィンの横に置く。
「今回はブラックにしたの。砂糖だって控え目にしたし… ね、食べてみて」
何時もの愛らしい笑みで言われてしまえば、食べない訳にも行かない
俺は控え目にブラウンのチョコ生地を掬い、口に運んだ。
先程飲んだコーヒーと混ざり合い、余計な甘さを感じなかった
苦手な、あのしつこい甘さが全く無い
彼女の配慮が良かったのか…
俺はまた一口と、湯気の上がるマフィンを食べていく
「ご馳走様」
空になった入れ物を見たなまえは、まるで子供の様に顔を輝かせ「お粗末様でした」と喜んだ。
…途中から少しキツかったのだが
最後まで食べれて良かった。
「旨かった。ありがとう、なまえ」
「どう致しまして。…初めて完食したね」
何時もより華やかな笑みを浮かべる彼女を見ると、今の満腹感も良いものに思えてくる。
…案外悪いものでも無いな
少しだけ、あの甘ったるいチョコレートを好ましく思えた様な気がした。
「ショコラマフィン」