short

□ショコラマフィン
1ページ/2ページ


朝起きると、ほんのりと甘い香りが俺の部屋に漂っていた。

チョコだか砂糖だか解らない、甘ったるい匂いが朝一番に肺を満たす。

(…重い)

まるで朝食からケーキを食べさせられた様な気分だ。


俺はすっかりダルくなってしまった体をベットから起こした。





寝ぼけた頭と、足を引きずるようにしてキッチンへ向かえば、其処には上機嫌のなまえがいた。

楽しそうに、せわしなくキッチンの辺りをうろうろしている


(…いや、あれは何か作っているのか?)

少しずつ近づいて行くたび、甘い匂いが強くなっていく


これはチョコレートの香りか


「何をしてるんだ?」

朝起きの呂律の回らない口がなまえに聞いた


すると彼女は手元から目線を上げ、此方に微笑む。

「チョコの苦手なリゾットに食べさせ様と思って」
「…そうか」


俺はさも興味が無いとでも言いたそうに、近くの椅子に座り込んだ。

すると、つつっとなまえがコーヒーを運んでくれる


ありがとう、と言うと また微笑み返された。






暫くぼうっと外の景色を眺めていたら、コトリと何かが置かれた

視線をそれに注げると、目の前に焼きたてのマフィンがある


「…これは?」

横でニコニコてしているなまえに聞けば、「チョコマフィンだよ」とだけ言って、向かいの席に着いてしまった。


小さな可愛らしい紙のカップに、ブラウンの生地がたっぷりと詰まっている

よく見てみれば、中には小さなチョコチップも散りばめられていた


「…なまえ、チョコは…」
「分かってるよ」


彼女はフォークを二人分出してきて、焼きたてのマフィンの横に置く。


「今回はブラックにしたの。砂糖だって控え目にしたし… ね、食べてみて」


何時もの愛らしい笑みで言われてしまえば、食べない訳にも行かない


俺は控え目にブラウンのチョコ生地を掬い、口に運んだ。

先程飲んだコーヒーと混ざり合い、余計な甘さを感じなかった


苦手な、あのしつこい甘さが全く無い

彼女の配慮が良かったのか…

俺はまた一口と、湯気の上がるマフィンを食べていく






「ご馳走様」

空になった入れ物を見たなまえは、まるで子供の様に顔を輝かせ「お粗末様でした」と喜んだ。


…途中から少しキツかったのだが

最後まで食べれて良かった。


「旨かった。ありがとう、なまえ」
「どう致しまして。…初めて完食したね」


何時もより華やかな笑みを浮かべる彼女を見ると、今の満腹感も良いものに思えてくる。


…案外悪いものでも無いな

少しだけ、あの甘ったるいチョコレートを好ましく思えた様な気がした。




 「ショコラマフィン」

 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ