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□黒い瞳
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彼女は元から正義感が強かった。
何事にも正しい方へと進みたがる…


例えば道に財布が堕ちているとしよう。

俺だったら迷わず拾い上げて、中身を抜き取って終わりだね。


…しかし、彼女は律儀にも落とした相手を探しだそうとするのだ。

前に
「何でそんな偽善者振る?」
と聞いた事があった。

すると彼女は、その綺麗に整った顔を少し歪め

「偽善ではありません。正しい事をしたまでです」

と、きっぱり言い返されてしまった。



そんな彼女、なまえは俺達と共に[暗殺]なんて言う、正義からもっとも離れた仕事をしている。

一見なまえには不向きな仕事かと思いきや、暗殺を頼まれる相手なんてのは大抵人の道を外れたゲス野郎ばかりだ。

…人殺しの俺の台詞じゃないが。

兎に角、そんな理由があってか彼女は実に良く働いた。




「なぁなまえ。次のターゲットの特徴って覚えてるか?」

「プロシュート… 昨日の資料に目を通していないんですか?」

なまえは呆れたように息をはく。

無論覚えてはいたが、冗談混じりの質問にこうもあっさり返されては次の言葉も出てこない…

人を小馬鹿にしたような視線を受けたが、特に気にする事なく流した。


そのまま無言で目標であるターゲットの自宅前にまでやって来る

(人身売買をやってるくせに良い所住んでんだなぁ)
成金までは行かないが、派手な外装の、暗い路地奥にある一戸建てをぼんやりと見上げた




…なまえは無駄な話をしない。

仕事に関する会話か、必要最低限の言葉しか喋らなかった

だからあいつが今どんな事を思っているのか、何を好きで、どんなの過去を持つのか…

長くなまえと組んでいながら、俺は何一つ知らなかった。


いつも目に入るのは、何処までも暗く、人を小馬鹿にしたようななまえの黒い瞳…



「プロシュート、聞いてます?」

はっと意識を戻せば、目の前に顔を覗き込むなまえの顔があった

既にターゲットの部屋の前まで来ていたようだ。


東洋人である彼女の黒い虹彩が、呆けている俺の顔をはっきりと映し出す…

不覚にも少し気持ちが高鳴ってしまった。


無意識になまえの腰に伸びた手を、彼女は事も無げに払い落とす。

不服そうになまえを見下げれば、彼女も怪訝そうに眉をひそめ見上げてきた。


「…相変わらずお堅いんだな」

「仕事中です。集中してください」


なまえは素っ気なく言い放った。

そして人を馬鹿にしたような目をふっとそらし、目の前の扉に視線を移す。

この扉一枚向こう側には、今夜のターゲットが酔いつぶれてぐっすり眠っているはずだ…


…こいつだって、この人を見下げたような態度さえ改めれば、さぞ男共から好かれるだろうに。

(まぁ、メローネの野郎は「そこがベネなんだよ!」とか言い出しそうだけどな)




なまえはペッシよりも入隊してきたのが遅く、チームの中で一番若い。

取り合えず俺が教育係になったは良いが、基礎を教えるだけで特にこれと言った苦労は無かった。

つまりは、ペッシよりも優秀なのであって…
俺としては面倒ごとが減ってなによりだった。


そして今回のこの任務が成功した暁には、晴れて俺の手から離れマンモーナ卒業、と。

最終試験みたいなものだろうか…?

(しかし… 結局最後までこの生意気な態度だけは教育できなかったな。)


唯一の後悔も特に気にせず、俺はタバコを一腹吹かし、まだ吸える吸殻を踵で踏み消した…


「プロシュート。私が先にスタンドを使って、目標の視力を奪います。なので、その隙に相手を出来るだけ早く… 」

「分かってるよ。おれのスタンドで身動きを封じるんだろう? 外で待機してるよ。…そっから先の事は、分かってんだろうな」

「……勿論です。」


なまえはたっぷりと間を置いて、力強く頷いた。


 
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