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□無彩色
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ふっと気が付くと、そんななまえの頭に手を置こうとしている自分に気が付いた。

(何をしようとしているのだろう…)

少し迷ったが、「そんな事は無い」と一言だけ呟き、視線を窓の外に向けた



もう日も沈みかけである。

辺りは橙色に染まり、何とも綺麗なコントラストが伺えた

そんな景色をぼうっと見ていると…


「…リーダーだけですよ。そう言ってくれるの」

なまえはそう言うと、背中を向けている俺に向かって
抱えていたクッションを投げつけてきた

ぽふっという衝撃と共に、何事かと振り返れば…


其処には辛いのか悲しいのか、それでも笑おうと口の端を吊り上げて
歪んだ笑みを浮かべるなまえが居た。


その瞬間、俺の中に何かがじんわりと広がって行く…

(何だ? さっきから俺は何がしたいんだ?)


感じた事の無い感覚に、少なからず動揺する。

「や…その…。」


珍しく言葉に詰っていると、なまえはふふっと可愛らしい声を上げて

いそいそと俺の背中に回りこみ、とすっと彼女の背中を寄り掛かけて来た

背中越しに感じる彼女の暖かい体温に、また体の中心から 何かじんわりと侵食していく…



「私って… 居ない方が良いんですかね」

後ろから諦めたような口調のなまえが囁く。

「そんな事は無い」と何時もの抑揚の無い声で答えれば、またクスクスと笑われてしまった


「違うチームに配属されてれば… って思いますか?」

「…いや」

「それとも国に帰れとか?」

「違う。」

「…私って、必要無いですか?」


寂しげで、不安に満ちているなまえの問いかけに答えていくうちに

何だか心に広がる何かを塞き止める事も出来ず…


ついには最後の問いに、俺は我慢できず身をよじってなまえを抱きしめていた。


突然の事に驚き、身を硬くする彼女

俺は彼女の耳元で「何も言うな」と呟き、ぐっと腕に力を込めた…

「…リーダー」

なまえの声が聞こえた。


しかし俺は腕の力を弱めるでもなく、ただじっとしている


暫くその状態で居ると「…ありがとうございます」と、照れくさそうな小さな声が返って来た

そして遠慮気味に、俺の腕に彼女の細い柔らかなてが添えられる


彼女の力できゅっと腕をつかまれると…


俺は、自分の中に広がる何か分からないモノが、初めてほんのりと色付いた様な気がした。




 「無彩色」


(そう、これはきっと
なまえの様に淡い儚い色…)

 
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