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□追う影
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今のうちに警察に飛び込み匿ってもらうか、それとも一目散に家へと帰るか。

だいぶ落ち着いて来た頭で考えていると…



また不意にあの足音が近づいて来た。

驚きに目を見開き、咄嗟に口を抑えつける。

…悲鳴が漏れないように



耳を澄ますと、あの男であろう奴の声が聞こえた

「セッコ、ビデオはちゃんと回ってるか?」

「オ、オオッ!」

「よしよし、そうか。後でちゃんと2つやろう」


セッコと呼ばれた男は、喜んでいる様な奇声を上げて それ以上は喋らなかった。

今の受け答えは、確かに会話である…


内容を聞いて、なまえの顔から血の気が引いていく

(…まさか、仲間が居たなんて
それに、ビデオって何なの!?)


私は更なる恐怖心に動く事すら出来なくなってしまった。

逃げ惑う私をビデをに収めながら、追っかけていたとでもいうのか…




−−−−


さて、あの女は何処に隠れたか…
実に上手く隠れたものだ。

私の新たな実験体としては、申し分ないだろう


何処に隠れようが、私のセッコにかかれば鬼ごっこも終わりだ。

こうして静かに耳を澄ましていれば‥



「きゃあぁぁ!」

ほら見つかった。
あの横道に隠れていたのか

チョコラータは、喜々として静かに歩み寄った。


そこには地面から顔を出すセッコに驚く、何番目かの被験者になろう女が居た。

名前は何だったか…
まぁ良い。

地面にへたり込む被験者に向かって、私は至極丁寧に話し掛けた


「やぁ、はじめまして」

「…。」

あまりの恐怖に、声も出ないのだろうか

女はただ恐ろしげに私を見上げていた



「君はボスの情報を知ってしまったのだ。だから比較的近い場所にいる、俺が担当になった。」

ふふん、と鼻を鳴らしてみると 一瞬セッコがこちらを向く


「おいセッコ。俺じゃない、彼女の顔を撮るんだ」


女は小刻みに震えていた。

実に良い反応だ、が… その目は未だ逃げだそうと逃走経路を探っている



この俺様からまだ逃げ出そうなどと考えているのか


私は過小評価していた女に好印象を覚えた。


「…おい。例えば、目の前に大切な物を持った知らない子供が居るとするだろぅ?」

君ならどうする?


私はにやにやと返答を待った。

(答えようによっては…)


女は訳が分からないと言いたそうな顔をし、実に躊躇した末 ゆっくりと口を開いた

「…もし、それが命よりも大切なら 私は子供を殺します」


そしてふいっと視線を外すと、また逃げる機会を見計らっているのか隙を見逃すまいと目つきが鋭くなる。



(素晴らしいじゃないか!)

私は笑顔を深めた。


「…実に良い答えだ。さて、もう一つ質問がある」

例えば 人として死ぬか、人を落ちて生きるか。そんな時、君ならどう選択する?


私は腰を屈め、相手の視線に合わせる

女は考え込むように押し黙ると


「わ、私だったら… 人じゃ無くなっても生き残っていたい‥です」


思った通りだ!

私は機嫌よくニヤニヤと笑い出し、すっとその場を立った。



すると、突然女は私の横を走り去ろうと駆けだす

(この瞬間を狙っていたのか)


実に興味深い反応だが…

私は逃げ去ろうとする女の手を瞬時に掴み、自分に引き寄せた


「逃げられんよ」

女の耳元で囁き、ククっと笑った。


そう、思い出した。
名前はなまえと言うんだ


なまえは絶望を浮かべた表情で見上げてくる

俺はそんな目を見つめ返し、またククっと笑った




        「追う影」



死なせはしないよ
人では無くなるがね。


 
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