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□追う影
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「な、何なのよ…!」

暗い路地裏を、私は一人逃げ回っていた。
時間は既に深夜を迎えている




追いかけてくる正体の解らない相手に、なまえは悲鳴混じりの声を上げた。

走りつつも確実に距離を詰めてくる相手…


私は訳が分からず、ただ直感的に逃げるしかなかった。





人気のない道を、なまえの駆ける足音がやけに大きく響く…

それが更に気持ちを焦らせた。


「だ、誰なんですか!?」


危うげな足取りに、後ろを振り返りながら相手に声を掛けるも 何の返答も無い。

姿も見当たらないのに、確実に影だけが彼女の後を追って移動していた。

絶対に存在するという相手の黒い影が、走り去る街並みの壁にへばりつきながら追い掛けてくる…



足元に広がる闇よりも、その影だけは異様に黒く思えた

(っ、どうしてこんな事に!)


もつれそうになる足を懸命に動かし、混乱する頭の中で何度も同じ疑問が 繰り返し思い起こされた




−−−−−


なまえはいつも通りの生活を送っていたつもりだった。


何処にでも居る女の子のように服選びに迷って、髪型が決まらないと文句を言い、そして学校にも通っていた


…唯一、何時もと違っていた事と言えば

今まで存在さえ知らなかった、父親からの手紙が届いたと言う所だろうか


内容は意味不明。

とあるギャングのボスの情報だと書いてあった。この情報を裏の人間に高く売るといい、とも書いてあったが

私には関係の無い事だ。


今更父親だと言われても… 最早赤の他人である
私はその手紙を破いて捨ててしまった。





(でも、その手紙が何だっていうのよ!)

この状況を考えるに、思い当たる不信な点といえばそれしかない…

内容なんてとっくに忘れているのに


既に走り疲れて体力も限界になってきた。


なまえは、とっさに横道へそれ物陰に隠れる。

屈みこみ、肩で息をするほど荒れた呼吸を両手で押さえつけた



彼女の逃げ惑う足音が無くなった今、あたりは不気味なほど静まり返っている…




ただ得体の知れない相手の靴音さえ除けば…。

今になって分かるが、相手は実にゆっくりとした足取りで追って来ていたようだ


余裕を持ったその雰囲気に、私は少なからず腹立たしくなる

(余裕ぶっちゃって!)



隙間から、通り過ぎて行くであろう人物を見送ろうとした。


コツコツと、近付いてくる足音…




ついに私の顔に相手の影が被さった。

其処には、実に楽しそうな顔で辺りを見回している男が居た


(こ、こいつが追い掛けて来ていたの?)

そいつは私に気付く事無く通り過ぎて行く…



まるで狂人の様な風貌だ。


暫く息を殺していた私は、遠ざかっていく足音に耳を澄ませ

聞こえなくなると、ようやく安堵に頭を膝の間に埋めた。

(た、助かった…)


嫌に汗ばんだ額を拭いながら、私は眉を寄せる



…しかし あの男は何の理由で私を追って来ていたのだろうか?やっぱり手紙が原因か?


あの見たこともない冷めた目つきを思い出し、知らずと身震いをした。



 
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