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□聞こえない
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「…で、どうすんだよ。誰がこいつの面倒を見るってんだ?」

プロシュートには既にペッシが居るから無理だろう。メローネは論外だし、俺はそんなのまっぴら御免だ。

じゃぁリーダーか?


「なまえの教育係には、お前を「ふっざけんな!!」

ギリギリでせき止めていた怒りが、一気に噴出した


「おいおい! 何で俺がそんな女のお守りなんざしなきゃいけねぇんだよ!」

お前がやれば良いじゃねぇかよ、クソッ!



本人を前に思い切り否定の言葉を叫んでいるのに、女は全く気にも止めていない様だ…

(本当に聞こえねぇらしいな…)

怒りに歪んでいる俺の顔を不思議そうに眺めている。


「残念ながら俺には無理だ」

「あぁ!? 何でだよ!」

「…なまえの父親を殺したのは俺なんだ」


沈黙。


(だ、だから何だってんだよ! 罪でも感じて俺には出来ないってか?!)


初めて戸惑う様な表情を浮かべるリゾットに対し

「…クソッ。分かったよ!ただし、半月だけだからな!」

「感謝する。ギアッチョ」


後は頼む、と言葉を残すと 音も立てずに部屋を出て行ってしまった。

…よほどこの女と一緒に居るのが嫌だったのか



(今更人を殺した事に、何の躊躇いを持ってんだよ)

消えたリゾットに対し、何故か怒りを覚える。


静かになった室内…

俺は不思議そうな顔をする女を前に(教育っても、何すりゃぁ良いんだ?)


改めてプロシュートに対する感心が産まれた

イライラと考えていると、女が俺の服の袖をついっと引っ張って来た。


「あぁ?何だ」


聞こえていないと分かっていても、つい言い返してしまう。

女は不思議そうな顔でリゾットの出て行った扉を指差した。


「あいつはどっか行ったんだよ」


説明しても、ただ首を傾げるだけ…

(何だってこんな面倒な事になっちまったんだ…クソ)


俺は乱暴に机上にあった資料を裏返し、近くのペンで

[出てった]

と書いて見せた。



女は暫くその紙を見つめると、俺の手からペンと紙を取り

[彼方は誰ですか?]

と子供の様な字で聞き返す。


面倒臭そうに俺の名前を綴ると[面白い名前ですね]と書いて笑った。

笑った、と言っても声は出さなかったが 何が可笑しいのか、楽しそうに微笑んでいた。



(…何で笑えんだ?)

俺は名前を笑われた事に怒るよりも、何故か不思議と疑問しか浮かばなかった。

なぜこんな状況で、あんな風に笑えるのか…


俺は気が付けば「何で笑える」と書き記し、女の目の前に突きつけていた…

女は暫く考える様に眉根を寄せ、俺の不可解な質問に対し[笑うと楽しくなるから]と返し、ひとつ笑って手を差し出して来た



…恐らく握手を求める手だと思うが

普段なら無視して部屋に戻る所を、何だか女の…なまえ?の顔を見ると 不思議と妙な後ろめたさを感じて、渋々右手を差し出してしまっていた


まるで子供の様に顔を輝かせるなまえは、ぶんぶんと力強く手を上下に振り、クスクスと笑う。


(…変な奴のお守りになっちまたなぁ、クソ)


俺はなまえの手を振り解くと、紙に小さく[よろしくな]と記して ふいっと顔をそらした



         「聞こえない」



生活の世話まで任されねぇよな…?


  
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