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□お伽話
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「大体、メローネから喋り出したんでしょ?」


責任持って話終えなさいよ、と付け足せば。

「俺の客観的なストーリーより、なまえの主観的な話の方が面白そうだから」

と、目を輝かせながら返されてしまった…


私はこれ以上話したくは無かったのだが… 彼は後で帰り際にケーキを買ってあげる。と提案して来ると

私は間もあけずに頷き返し、先程よりは軽快な口調で主観的な話しを続けた



「お姫様は、馬鹿なりに一生懸命勉強して異国の言葉を学びました。…そして新たに手に入れた不思議な力で、初めて人も殺しました…」

「…。」


途端に彼の目が、一瞬気まずそうに泳ぐ。

私はそんな彼の小さな変化を見逃すことなく、とつとつと語る



「…しかしお姫様は後悔していません。たとえ人として戻れなくなってしまったとしても、それは自らが納得し決行した事だから」

「…でも、お姫様の傍にいた男は腑に落ちません。どうして君みたいなお姫様が、此方側に来てしまったのか…」



彼はきっとこの事を聞きたかったのだろう。

脈絡も無く始まったメローネの客観的な物語は、まさかお姫様の心情を知りたいが為に作られた話しだったなんて


…何だか上手く彼に誘導されたみたいで、私は少しだけ先程の気怠げな気持ちへと戻ってきていた

(帰りのケーキは沢山買ってやるんだから)



周りの騒がしさが、まるで幕を張ったかの様にくぐもって聞こえてくる…
(もう二人だけの世界になってしまったのね)


それ程までに、この物語にのめり込んでいたのであろう私は、今度はしっかりと彼の瞳を見つめ返した



「仕方がないじゃない。お姫様はお馬鹿なのよ? 深い理由で動いてはいないの。」

「単純なお姫様だね…」



ふふっと、彼はやっと力無く微笑んだ。

私もにこっと微笑み返し、話を締めくくりにかかる。



「お姫様にとって、大切なのは一つだけ… 自分の居場所は楽しいかどうか。たったそれだけだったのです」


「はいお終い!」そう叫んで机のフォークを取り、ケーキを食べ始めた。

向かい側の席のメローネは、しばらくぽかんとしていたが…



仕舞いには肩を震わして笑い始めた。


彼がここまで大笑いするのを初めてみた気がする…


口に運びかけたフォークを持つ手が止まった。

そして何だか恥ずかしくなってきた…


かっと血が巡り、顔まで逆上せてくる…




中々笑い止まない彼に、遂には机を叩いて立ち上がった。

「な、何もそこまで笑うことないでしょ!?」


彼はひーひー言いながら、澄んだ碧の目に溜まる涙を拭って「ごめんごめん」と謝る。


私はまたふんと鼻をならして、どかっと椅子に腰掛けた。



「だって、私馬鹿だから… だったら楽しい方が良いじゃない!」

「確かに、楽しい方がいいな」


彼はようやく落ち着いたのか、満足そうな顔で答えた。

私はぶすっと彼のコーラを奪い取り、渇いた咽を潤す



…何故か咽がカラカラに渇いてる


ごくごく飲む私を、彼は何だか和やかな顔で眺める…

(コーラをひっかけてやりたい!)

飲みながら睨みつけると、また怪しげな笑みが返ってきた。




「…男はなまえの為に、何時も楽しくある事を誓いましたとさ…」

頬杖を付き、彼はにっこり呟いた。


私はふんっと、鼻を鳴らし
そしてクスクスと笑い出した…




 お伽話


 
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