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□お伽話
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「昔々、世間知らずのお姫様が居ました。」

彼はそう言うと、怪しく微笑んでみせた。


私は紅茶を啜る手を止め

「いきなりどうしたの?」

不思議がる私に、彼は「まぁ、聞いて」と疑問をを遮った。




−−−…


私達は軽い昼食を取りに、外へ出掛けていた。

仕事仲間であるメローネも私も、余り料理が得意でないため

二人でこっそりと抜け出して来ていたのだった。



所属しているチームの資金が、そんな事に使っているなんて知れたら…

きっとリーダーにメタリカの刑である!


なので何時も外食に出かけられる人は限られるのだ。

…正確に言えばメローネぐらいしか居ないんだけどね





薄く晴れ渡る空に、途切れとぎれの雲…

気持ちのいい気温は、そよ風となって足元をくすぐる。



彼は勿体ぶったように紅茶を含むと、パスタを一口頬張った。

外からの光で、彼のハニーブロンドの髪が優しげに輝く…


フォークに絡むパスタへ注がれた瞳は、すんだ海の様に怪しげな碧色であった



東洋人である私からみればとても珍しいのに。

彼は自分を綺麗だなんて思った事があるのだろうか…




中々話し出さない彼に、何だかここで先を急かすのもまるで子供のようで…

仕方無く話し出すまで、大人しく待つことにした

慣れた手つきで食事を続ける。



(大人しくしてれば格好良いのにな。)

くぴっと、紅茶を含みながら今更ながらの事を思った。




甘党の私には、一杯の紅茶に角砂糖は4つって決まっている。

何となく足りない気がして、もう一つ砂糖を入れた。



すると、スプーンでかき回す私を見て、彼は舌を突き出し
からかう子供みたいに苦そうな顔をしてみせ「またそんなに入れる…」と呟いた。



私はそんな反応に軽く鼻をならし、つんとそっぽを向く

別にそんな事関係無いでしょ。と言いたそうにすまして見せた


「はは。ごめんよ、子供みたいに拗ねないでくれ。」

「拗ねてません。早く続き話さないと、メローネの紅茶にも砂糖入れてやるから」



彼は可笑しそうにクスクスと笑い、紅茶のグラスの淵に手をかけ「それは嫌だな」と笑った。


今にも入れてやると砂糖を掴んだ私の手は、入れる場所を塞がれてしまい渋々元へと戻す…



「さて、どこまでだったかな?」

「まだ始まってすら無かった」


世間知らずの少女が居ました、って所まで。私が興味なさそうに教えれば

彼は思い出したように、あぁと顔を輝かせた。



「世間知らずの少女は、ある日異国へ飛ばされてしまったにも関わらず、その事実さえ気付きませんでした。」

「世間だけじゃなく、頭の悪いことも知らなかったのね」



紅茶も無くなり、ウエイターを呼んでデザートを頼みつつ、メローネの話に口を挟む。

彼は同意するように何度も頭を縦に振った。


「その頭の悪いお姫様は、ある独りの男に出会い、何となくその人に付いて行く事にしました。」

「お姫様… 知らない人にはついて行っては行けないのよ?」



私はやれやれと息を吐いた…

しかし彼は意味ありげににやにやと笑っている。


(…何を笑っているの?)


そして徐々にメローネが何の話をしているのか、ぼんやりとだが、予想がついて来た…

一気に私の顔が不機嫌になって行く



そんな私の心境を知ってか知らずか… 彼は相変わらず何かを含んでいるように微笑んでいた。


顔が綺麗なのは綺麗なのに…


むすっと膨らむ私に構わず、彼の話は進んでいった


「そしてお姫様は気付いたのでした。この男は普通ではない。…殺人者だと」


彼の笑みは最後になってすっと、引っ込んでしまった。

まるで叱られた子供のように沈んだ雰囲気を醸し出す…




中々話の先を続けない彼に、私は仕方なく続きを受け取った

「はぁ……。しかし、彼女は気が付くのです。殺人者であろうこの男も、私と変わらないただの人間なのだと」



面倒臭そうに溜息をつけば、先程運ばれてきたデザートのケーキにすっとフォークをさしつつ私は話し出した。


ちらっとメローネの方を見ると、彼は少し驚いた表情で何時の間にか此方を見つめている…



「…僕の思っていた物語と…違うね」

「当然でしょ。物語は大抵客観的なのよ」


ぱくりとケーキを頬張った。

フルーツの甘酸っぱい酸味が鼻を突く


そんな私を彼は控えめに、それでも興味深げに身を乗り出して続きを待った…



それ以上は余り話したく無く、まぐまぐとケーキをむさぼっていたのだか…


逸らされる事のない彼の直線的な視線に、諦めたようにフォークを机へ置いた。



「…続かなきゃ駄目?」

「だめ。かな」


曖昧に区切り、そっと微笑む…

そんな顔されてもなぁ…


「ふぅ…。」

私は溜息を付いた。



 
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