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□落ちた林檎
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良く晴れた平日のこと。

真っ青な空に、薄くまばらな雲が浮かんでいる。

そんな空に太陽は透明感を与え、あたりを眩しげに照らしていた




人通りも多く、活気の見える商店街

そんな中 辺りに目もくれずふらふらと歩く少年が一人…


沢山の食料の入った紙袋を両手に抱えた少年、ドッピオは
器用に人を避けつつ寡黙に歩き去っていた。

…むしろ、そんな頼りなげな少年を気遣って、町の人達の方から道を開けてくれているのかもしれないのだが。



彼は暫くの長期滞在になるため、必要な物を買い出しに行けばこの有様でる

少年は不意に、か細い溜め息を零した…




同年代の子と比べ少し小柄な体格であるドッピオは、多少の荷物でも足元が危うい…


紙袋の縁からギリギリに詰められた食料などが、まるで彼の身長を嘲笑うかのように視界を塞いでいた。


(…きっと、今ボスからの電話が来たら取れないんじゃないのか?)


ふと思ったその可能性に彼は不安になり、余計に足早へと泊まるホテルへと急ぐ

角をろくに確認もせずに曲がると…





「…きゃっ!」

突然目の前から人影が現れ…


荷物を持つ彼と派手にぶつかってしまった





抱えていた紙袋は地面に落とされ、辺りにその中身をぶちまける。

中でも、丸い林檎がコロコロと一番遠くへ転がってしまった…




ドッピオは後ろに跳ね飛ばされ、受け身もとらずに尻餅をついてしまう。


「いてっ!」

頭の中に痛みに対する悲鳴が響く


「あ、あの…大丈夫ですか?」


すると、ぶつかった相手であろう人影がすくりと立ち上がり
未だ立ち上がれずにいる彼に向かって手を差し伸べて来た

彼はびくっと差し出された手へと視線を注ぎ、それから相手の顔へ向けてゆっくりと見上げていった



そこには申し訳無さそうに苦笑する女がいた…


彼は差し出された手をそのままに、ただぼうっと頭の中を真っ白にしてた

痛みによる混乱でなく、ただ純粋にこの状況が理解出来なかったのだ。

それともう一つ。

(女とぶつかっておきながら、その子に手を差し出されるなんて…)


ドッピオは顔を真っ赤にして、返答に困っていると



彼女は地面におかれる彼の手を勝手に握り、立ち上がらせてくれた。


「怪我は…無いですか?」

女は心配する目つきで、彼の体の至るところを観察する…



じろじろと見られることに、更に体を堅くするドッピオはせわしなく視線をさまよわせていた


「あ、あの…もう大丈夫ですから…その、すいませんでした…」


余り関わり合いたくないと言う風にそっけなく謝り、地面に転がる荷物の回収を始めた。




一人黙々と紙袋へ戻す作業を続けていると…

荷物を拾う手が多い事に気づく



ふと目線を上げれば、先ほどぶつかった女が一緒になって荷物を拾い集めていた


手にした林檎をもう一つの紙袋へと戻し、そしてまた落ちた物を拾っていく…


彼は慌てて声をかけた


「そ、そんな! 大丈夫ですって! ぼ、僕がちゃんと前を見てなかったから…」

「いえ、私こそ前を見ていなくて」



歩きながら本を読んでるから悪いんですよね…
と、女は困ったように、それでいて可笑しそうにはにかんでいた。


彼は何も言い返すことができず、ただ「はぁ…」とだけ気の抜けた様な返事しか返せなかった






しばらく会話もせずにひたすら拾い続けていると、
最初のぱんぱんになった紙袋の姿へと戻って来た


僕はそれをよろよろと持ち上げ、さっさとその場を去ろうとする。


しかしふっと思い出したように

「…えっと、有り難うございました…」

簡単な感謝を述べ、また足早にその場を去ろうとした。


すると、そんな逃げるように去ろうとするドッピオの背中に「あの」と、声をかけられた

…仕方なく足を止める。




「もし…時間があればですが。謝罪に…そこでお茶でもしませんか?」


女は照れ隠しのためか、自分の髪をせわしなく撫でつけていた。



彼はどうしたものかと、困ったように考えを巡らしていたが…


彼女の少し赤くなった表情を見ていると

無意識に、戸惑うようにこくりとだけ頷いていた…


 
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