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□視力検査
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ギアッチョは、顔の横にすっと右手を上げ「何本か分かるか?」と聞いてきた。


初めは意味が分からず、ずずっとアイスコーヒーを啜りながら見つめているだけだったが…


みるみる彼の顔色が険しくなるので、そこでやっと意味に気づき「三本」と答えた。




…簡単な視力検査かな?

この距離であれば、眼鏡が無くても楽勝だ。



彼は私の答えに一度頷くと、更に距離を空け ソファーの端っこへと移動し同じことを繰り返した。





二本。五本。よ… 三本!



徐々に遠ざかっていく彼に、私は目を細めて聞かれる度に本数を答えた。



しばらくして、彼がキッチンまで行ってしまうと

私はついに彼の指を数える事が出来なくなってしまった。




答えに詰まる私を見て、彼は溜め息をつくと ゆっくり元の場所へ戻って来た。


またぎしり、とソファーが軋み…



「ちょっとじゃなくて大分じゃねぇか…」


と、音を立てて座る彼に 私は口を尖らせ講義する。



「ギアッチョだって、眼鏡かけてるじゃん…」

「ばーか、俺は関係ねぇだろ」


ずいっと出て来た彼の右手に、頭をくしゃくしゃにされながら言い返されてしまった…



(…そんなのずるいよ)

ますます口を尖らせる私に、彼は「ふぅ…」と溜息をはいて見せ


「…やっぱなまえだな。」



そう呟いて、久々に彼は微笑んでみせたのである





珍しい彼の表情に、驚いたように見つめていたら…

何見てんだよ。と更に頭をぐしゃぐしゃにされた。







「…せめて、俺の顔が分かる距離にずっと居ろよな」


彼の呟きは、なまえの耳に届く事なく 静かに空気へと溶けていった…





 視力検査



 
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