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□視力検査
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気が付けば辺りは日が沈んで、遠くの空は赤く霞がかっていた。


ちらりと部屋の掛け時計を見れば、もう5時過ぎになっている…




今まで読んでいた本に栞を挟んで、ぐっと私は伸びをした。

「ふぁ… 結局、何時も通りだったな…。」




折角の休日も、こうして読書に耽っては一日を潰してしまうのである。


…今日は買い出しに行こうと思ってたのに



そう思いつつ、掛けていた眼鏡を外して 変に強張った目を揉んだ…


「まぁ、また今度で良いか…」



一人納得ごちに呟けば、暗くなってきたにも関わらず 私は電気も付けずに、また読書へとのめり込んでいった…






すると、パチッと無機質な音が響き
突然辺りが光に包まれたように真っ白になった


「っ、なまえ!?」



暗闇に慣れた私の目には、刺すような、閃光的な蛍光灯の光が視界を覆う。


突然の事に、「きゃあ!」と短い悲鳴を上げ、両腕で目を庇った…

咄嗟に読んでいた本を落としてしまう…



すると玄関側の方から、声の主であるギアッチョが「わ、わりぃ」と、謝る声が聞こえた。



徐々に照明に慣れてきた私は、手をのけて不機嫌そうに顔をしかめてみせる。

そんな私を見て、彼も不機嫌そうな顔をした。



「…目が潰れるかと思った」

「だからわりぃ、って言っただろうが」



眉間に皺を寄せ、ふんと鼻をならすと
彼は私の横にずかずか寄ってきて、どさりと座り込んだ。


ギアッチョの重みで、ソファーがぎしりと沈む。






彼とは、ただの友達である。


たまたま買い物途中に会い、彼の方から一方的に連絡先を教えられたのだ。



それがギアッチョとの出会い…


そして何時の間にか、私の家に上がり込んで来るまでになったのだ。



最初は怒ってばかりで付き合いにくい人だと思っていたけど…


たまに見せる可愛らしい一面に、きっと知らず知らずのうちに 私も彼に慣れてしまったのだろう。




今では仕事帰りに私の家に寄るのが、彼の日課となっていた。


…よくもこう毎日これるなぁ



仕事の内容は一切喋らないが、大変そうだという事は何となく感じ取っていた。







彼は先程買ってきのであろうコンビニの袋から、ミネラルウォーターを取り出すと私に目もくれずぐびぐびと飲み始めた。



…余程喉が渇いていたのか。

あっという間に飲み終わってしまうと、物足りなさそうに 空になった容器を見つめた。



私は落ちてしまった本を拾い上げ、眼鏡と一緒に机へ置く。


「足りないなら、アイスコーヒーでも作ってあげようか?」



すると彼は 面倒臭そうに目つきを強め、深く背もたれに身を沈めながら

空の容器に視線を落としつつ、ぽつりと気恥ずかしそうに…

「おう…」

と、小さく呟くのであった。



私はそんな彼の反応にクスリと微笑み、キッチンへ向かう途中
彼の頭をぽんと撫でてやった。



ギアッチョは、「な、何すんだ!」と さらに不機嫌な顔になったが…

かと思えば、ふいとそっぽを向いてしまった。


…そんな所が可愛かったり






二人分のアイスコーヒーを作って戻ってくると、

彼は興味深げに私の眼鏡で弄んでいる途中だった。



彼の隣に腰掛け、冷えたグラスを渡す。




「お前って、目ぇ悪かったっけか?」


ん、とアイスコーヒーを素っ気なく受け取りつつ、私の前で黒縁の眼鏡を揺らした。


私はストローで啜りながら、「ちょっとだけね」と答える。



その返答に、彼は眉根を寄せ 機嫌悪そうに聞き返した。


「少し、か?」

「うん。まぁ今回は何となく掛けてただけ、なんだけどね」



冗談めかして肩を竦めて見せると
彼は何を思ったか…

手にしたグラスをテーブルに置き、真面目な顔で私に向き直る。



一様、私もコーヒーを啜りながら
体を彼の方向に向けた。


 
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