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□束ねた髪
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「よし、出来た」

我ながら、中々の出来映え…

結び終わった彼の髪を、ぽんと跳ねさせる。


「あ、ありがとう…」


すると彼は、困ったように それでいて嬉しそうに感謝を述べた。



私は「どう致しまして」と言いながら、もといた自分の場所へと戻って行く…




席につき、紅茶を手にすれば
それはとっくのうちに冷めてしまっていた…


何となく不満げに顔をしかめていると



「…あ、俺がお代わり煎れてくるよ」

「え? そんな、良いよ。仕事の途中だし…」


今日中なんでしょ? と、言えば
彼は「何とでも無い」と言いたそうに微笑んで、首をゆるゆると振った。



多分髪を結んでくれた事に対する、お返しのつもりなのだろう…


言い出したら聞かない彼の性格を思い、「じゃあ…お言葉に甘えて」と、言うと
「あぁ。」そう言って、数時間ぶりにその場所を立ち上がりキッチンへと向かっていった




…今日は誰もいない。


丁度皆は任務に出ていて、実に静かなものだ。


聞こえるものと言えば、彼の淹れてくれてる紅茶作りの音と、頼りなさげな小さな小雨の音…


決して良い天気とは言えないが… 私としては、実にのどかな時間であった。




しばらくして、ぼうっと外を見ていた私の元に二人分の紅茶が運ばれて来た。

暖かな湯気に乗って、茶葉の良い香りが漂ってくる。


彼は私の向こう側に腰掛けると、一杯次いで私に渡してくれた。

それを微笑みながら、ありがとう。と受け取る



彼も視線は相変わらずせわしなかったが、「いいんだ…。」といって、自分の紅茶を啜った。


そんな彼の素っ気なくも、暖かい心遣いに 私はたまらない嬉しさを感じる…





今度は特別に、貴方だけにお菓子を作ってきてあげようかな。


そうすれば、あなたは視線を逸らしながら 何をしてくれるのかしら?




ちょっとした下心に自分でも苦笑しながら、彼と他愛もない会話を楽しんだ。




仕事が間に合わなくったって、私のせいじゃないもの。

私はこっそりと笑った。




 束ねた髪


 
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