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□束ねた髪
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此処の所、寒い日が続いている…


ふと視線を窓に向ければ、ポツポツと小雨が降っていた。


空は厚い曇天となり、自然と辺りが薄暗くなる…




アジトのベランダに置いてあった植物たちは、普段あまりに水を上げ忘れていたためか

何重にも広がる葉の先が、少し茶色く枯れ始めていた。



そんな風景を横目に、彼は何やら真剣そうである。


分厚い本を片手に、床に散らばる無数の細かな字の資料を見て、

空いた手で床のパソコンに 何やら物凄い勢いで文字を入力していた。




そんなチーム仲間である彼の姿を、なまえは詰まらなそうに観察している。


彼女は砂糖の沢山入った紅茶を啜りながら、ふぅと息を吐き出した。



「…そんなに根詰めてると、キューティクルに良くないよ。」



今は乱暴に後ろで束ねられた彼の髪を見ながら、彼女は何となく呟く。


そんななまえの呟きに、イルーゾォは困ったように顔を上げ はにかんだ。



「…これくらい大丈夫だよ」

「そう? ボサボサ頭のイルーゾォなんて、私嫌だけどなぁ」



紅茶を含みつつ、何となくぽつりと零した言葉だったが…


彼は突然慌てた様に、視線を忙しなく動かし始めた。



「な、何言ってるんだ? そんな事…関係な…」

「でもそう思う。」


ピシャリと彼の言葉を防ぐと、更に落ち着きなさそうに手元の本を弄りはじめた…



何だか子供の照れ隠しみたい。


クスクスと内心笑いながら見つめれば、
彼は「そうかな…」などと自分の髪を撫でつける



乱暴で、投げやりなその行動に

私はカップを傍らに置いて、イルーゾォの背後へと近づいて行った。



そして束ねられた彼の髪を持ち上げ 纏められている紐をするりと解く。


彼は触れられた瞬間 びくりと身を震わし、控え目な目線だけで 私に何をするのかと問いかけて来たが…

そんな見上げるような彼の視線をニコリと受けとめ、頭をがしっと掴むと、真っ直ぐに前を向かせた。


「私が結んであげる」


そして勝手に手櫛で梳き始める





彼の背中から立ひざの状態で髪を弄り、仕事の邪魔をしないよう心掛ける。


彼の髪は、梳いていると 所々指が突っかかったりしたが…
次第にスムーズに指通りが滑らかになって行った




イルーゾォの髪は、チーム内で珍しい黒髪だけど…

私はそんな彼の色が何となく気に入っている。



暗い所では本当に闇に溶けたように同調してしまうし

一度日の光を浴びれば、それはまるで きらきらと輝く柔らかなブラウン色へと変わって行くのだ…



彼の匂いを感じながら、私はゆっくりと髪を梳く…



たまに首筋へ触れる指に、イルーゾォは大袈裟に肩を震わした。

それをふふっと笑いながら、結わく作業を進める


束ねていくたび、彼の髪から仄かにシャンプーの匂いが漂って来た…



それは何時もの彼の香りで、私はまるで彼に包まれているような錯覚に陥る…



彼は私が勝手に結び始める間、何だか落ち着きなさそうにそわそわと足を組み替えたり、
散らばる資料を手にとっては戻したりと…


どうやら仕事が手に着かないようだった…。



仕事の邪魔はしないようにと思っていたのだが…

結果的には邪魔をしてしまっているのだろうか?


そんな事を頭の端で考えながら、仕上げの紐を纏めた髪に巻き付ける。



 
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