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□幸せの音色
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パソコンの画面へと視線を戻してから、どれくらい時間が経っただろう…


もやもやと考え事はしていたが…

多分そんなに何十分も経って無いはずだ。






…気が付けば、またピアノの音色が途切れていた。


顔を上げてなまえの姿を確認しようとするが、其処には無人のピアノがあるだけ…



「…なまえ?」



自分でも聞いた事の無いような、不安げでか細い声が漏れた…

言って恥ずかしくなる。

一人肩をすくめながら辺りを見渡していると

後ろからクスクスと面白がるような笑い声が聞こえた。



途端、落胆にも近い安堵感が身体にのしかかる…



「なまえ… 君って、そんなに悪趣味だったっけ?」

「それはお互い様。メローネだって奇抜な変態じゃない」

「俺が変態なのは元からだよ」

「あ、開き直った」



そしてまたクスクスと笑い出した。

ちらりと後ろを振り返れば、背もたれの後ろで小さく丸まって潜んでいるるなまえと目が合う


彼女独特の色味を持った綺麗な虹彩には、自分の呆れ顔が歪んで写り込んでいた

すると其処に映る自分の口元が僅かに緩んだ


(どうして君はこうも可愛らしいんだ…)



溜息を吐くと、ふわりとした感覚と嗅ぎ慣れた甘い匂いが首に纏わりついて来た。


彼女は俺の首に抱きつくように腕を回している


なまえのとろけるような香りが鼻腔を突き… 柔らかな髪が顔をなぞる。




「ごめんね、驚かせようとしたんだけど… 仕事の邪魔しちゃ悪いかなって思って。」

「それでずっと俺の後ろで待ってたのか?」


なまえは嬉しそうに「うん。」と頷くと 抱きつく腕に力を込めた





…嗚呼、俺は本当に幸せだ。

なまえに会えて…

そして彼女と共に過ごす事が出来て。




俺は優しくなまえの絡みつく腕を解き、右手で彼女の顎を掬って

自らの唇と彼女のを重ねた。




呑気にそよぐ風と、なまえの香り…

そして脳も溶かしてしまいそうな口付け。


それだけで俺の幸せは充分だ。





なまえは唇を離すと、照れ臭そうに笑った。


俺はそんな彼女の姿を見て、何だかもう一度口付けをせがむが…

慌てた様に俺から飛び退いた。



まるで小動物のような跳ねる姿に、こっちまでも笑ってしまう。




「メ、メローネ… 苦い味がした…」


笑われた事に顔を赤くしながら、なまえはぽつりと漏らした。



「甘党のなまえには、ブラックのコーヒーは早すぎたかな」


俺はクスリと笑みを零す。








ただ、もう一つだけ我が儘を言えるなら…

なまえの奏でるピアノを聞きながら、苦いコーヒーを啜る。


これがベリッシモ(最高に)幸せなんだ…





 幸せの音色


 
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