long

□3
1ページ/2ページ



「ここが良く行くおもちゃ屋で、あれが中華料理屋だよ。あそこのチンポーチキンが美味しくてさ」

彼は…カートマンと言ったか。
カートマンは1つ1つ丁寧に来たばかりの町を紹介してくれた。

比較的大きな町でもないようで、主要なところを教えてくれる

母親よりも先に詳しくなれそうだ。

説明してくれる言葉を必死に翻訳して理解しながら、私は彼の後ろを付いて回っている。

真横を歩くのはさすがに恥ずかしい
だって男の子だし、外人さんだし

太っちょと言っても、やはり顔はしっかりしてて薄い虹彩が不思議だ

途中、道行く人の珍しげな視線がむず痒くてパーカーのフードを目深に被った


公園に差し掛かったところ

「カートマン!」

突然男の子の叫び声が響いた。
びくりと肩を跳ね上げるのと、カートマンが舌打ちをしたのは同時だった

後ろを振り返ると、向こうの方から3人組がこちらに向かって走って来ている

(私何かやらかしたかな…)

不安に下唇を噛んでいると、すっと私の前にカートマンが現れ駆けつけて来た3人組との間に立ってくれた

さっき会ったばかりの彼だが、何だか心強い

引っ越したばかりで面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ

私はカートマンの影に隠れるように小さくなる。

彼の肩越しにちらりと様子を伺うと、息を切らしている3人組はどうやら年上?の男の子達だった。

緑の帽子の子に、青い帽子と、オレンジフードの子。

なんて見分けがつきやすいんだ

彼らは肩で息を切らしながら、物凄い形相でこちらを睨んで来る…

(うえぇぇ、何か怒ってない?私来たばっかだし、カートマンに用かな…)

そう言えばカートマンって誰かが叫んでた。



暫くの沈黙の後、最初に口を開いたのは緑の帽子の子だった

「このでかっ尻!!何勝手に抜け駆けしてんだ!」

いかにも掴み掛かりそうな勢いで怒鳴るものだから、つい私が怒られているみたいに萎縮してしまう。

そもそも喧嘩とかが嫌いなのだ。
怒鳴ったり、暴力振るったり、考えられない。

「やぁカイル、奇遇だねこんな所で」
「黙れ!」
「おいカートマン、話が違うぞ!」

青い帽子の子も乗り出して来た。

「俺が先に計画したんだ!自分だけいい目見ようなんて都合が良すぎるぞ!」
「そうだぞこのデブ!どうせまたくだらない事でも考えてんだろ!」
「もごもご!」


何かいろいろと叫んでるけど言葉が早すぎて聞き取れない…

くそっ、もっと勉強しとくんだった。

ヒートアップしたその場では、最早私のリスニング力は敵わずただただテレビの様に音だけが流れている

こう言うのは苦手だ
ほんとに。

見てるぶんには構わないが、少なからず私も関わっているとなると話が違う

(ごめんねカートマン!)


私は注意が外れているのを確認して、そろそろとその場を抜け出し
ある程度の距離が取れた所まで後退して、ダッシュでその場を逃げた



体力なんてほとんどない。

きっと100mも行かず私の非力な足は悲鳴をあげ走るのをやめて歩き出した。

振り返ればまだ見える距離に4人がいる。

早々になんて日だろう

日頃の行いか?
いや、最近は良い子にしてたはずだ

何にしてもあの3人組には関わらない方が良さそうだろう。
緑と青とオレンジの子。

もう覚えたぞ

私は身震いを1つしてさっさと家に帰った。








ったく!ほんとに散々!
あの場から逃げだせたは良いものの、帰り道がわからず暫くさまよってしまった…

途中で迷子の動物は拾うわ、窓から身を乗り出す男の子に話しかけられるわ、酒に酔った親父に絡まれるわ…

何だ?厄日か??

もう寝よう。
学校は明後日からだ。

明日こそはこの殺伐とした部屋を私好みに飾るのだ。

私はようやくベットに横になるととても長かった1日を振り返りながら、くそっと呟いて眠りに落ちた





翌朝。
母親のけたたましいモーニングコールに起こされながら、私は布団を出る気になれなかった

とてもいい目覚めとは言えないし、何しろ昨日の今日だ。

母親にはカートマンに連れ出された後のことを、それとなくいい感じに伝えてあるが実際は逃げ帰って来たのだし

まぁ事実が言えない以上、惰眠は許されまい

頭を掻きながら渋々ベットから抜け出した。


日中は殆ど荷解きに追われ、昼過ぎは部屋の飾り付けにつきっきりだった。

父親に頼み込んで揃えてもらったお気に入りの家具。

シックにシンプルに。
白をメインに、差し色で色鮮やかなアクセントも入れる。我ながら完璧

女子の部屋!って感じはさらさらない

昔からピンク色とかお人形遊びとかあまり好きではなかった。

どちらかと言えば外で遊びたいし、今は青と黒い色が好き。

ふと道路に面した窓を見れば、外は薄紫に染まり夕日が沈みかけていた。

「なまえー!夕飯よー」
「はーい」

まだ2、3個片付かないダンボールを隅に追いやり下に降りた。



.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ