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□手伝って
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「hay! スタンちょっと聞いて!」

誰かが机をバンと叩いた。

そこに伏せって寝ていた俺は、ビクリと体を震わせる。

何事かと睡気まなこで主を探せば、顔を赤く染めたなまえがいた。

もちろん、怒りで。



今は昼休み。

せっかく午前の授業も終わって、給食をたらふく喰ってのんびりしようとしていたのに…

この感じでは、何か長話でも始まりそうな気がする。

「厄介ごとはカイルに言ってくれ…」

もごもごと、また腕を枕に夢の続きでも見ようと机に沈み込んでいけば、バン!っとまた机を叩かれた。


…やめろよ、寝起きにその音は頭に響く


舌打ちをして、はんば諦めたように上体を持ち上げた。
背もたれに全体重をかけ、ずれた帽子もそのままに大きなあくびを一つ。

「Dude!あくびなんかしてる場合じゃねぇぞ!あのクソ野郎、まただ!」

およそ可愛い女子からは程遠い言葉遣いでなまえは怒鳴った

「俺に怒鳴んなよ、うるさいなぁ」

「Fuckin'カートマンの奴がまた私の食事に納豆ぶち込んできやがった!もう我慢ならねぇ!」

「あぁ…またそれか。飽きないなカートマンの奴」


ここ最近、カートマンは新しい遊びを考えたらしい。
きっかけはテレビでやってた日本の特集番組

日本人の食生活を取り上げたもので、中でも臭いと騒がれてた「納豆」とやらに興味を持ったらしい。

今時こんな田舎でもスーパーとかに行けば、日本食が少しだが置いてある。

日本食ブームとか、そんなのに便乗したのだろう。

そう言えば、テレビのコメディアンが物凄い顔をしながら納豆を食べていたのを見たことがある。
よほど臭いのだろう。

興味はあるが食べようとは思わない。


そんな納豆を、最近のカートマンは日本人であるなまえの給食に混ぜて渡してくる

「ジャップはこれが好きなんだろぉ?」とスープもパスタもパンも全てごちゃ混ぜに納豆に絡めて彼女の前に置くのだ。

そりゃあ誰だって怒るだろ

それがここ5日ほど続いているのだ。


最初こそ笑って過ごしていたが、怒ってるなまえと同じことの繰り返しに流石に飽きてきた。

その度に殴られ、自分の給食をなまえに奪われるカートマンだが、奴の執着心は侮れない

しつこさで言えばきっと世界一だ。

止める方法は2つ。
カートマンが飽るのを待つか、ボッコボコに潰すか。その二択しかないだろう

(俺なら殴るけどな)

あくびをかみ殺す。



すると暫く考え込んでいたなまえはふっと真顔になると、おもむろに黒髪を束ね出す。

両手を頭の後ろに回し、髪を結びながら

「…もう駄目だ。damn it. 殴ったけど気が収まらねぇ。スタン、ちょっと手伝って」

「はぁ?何で俺」

「え?手伝ってくれないの?」

彼女は逆にキョトンと聞き返してきた。

いや、何だその手伝って当たり前みたいな聞き方は

…まぁ手伝うけど。

「はぁ…。俺チョコアイスな」

「えー、私のハグじゃダメ?」

目をパチクリさせて両腕を広げる。
俺はそれを冷ややかに見ながら背伸びをして、のそのそと席を立った

「そんな女子っぽく言われても困る」

「うるせぇな女子だぞ」

なまえは無理やり抱き着いてきて力の限りぎゅっと抱きしめてくると、丁度頭が俺の胸辺りになって収まり良く埋めて来る。
彼女の頭が当たらないように顔を上に逸らした

教室にはまだ他にもクラスメイトがいたが、特に気にした様子もなくそれぞれが何かしている。

もはや慣れた光景だろう


「どうだ、感謝しろよ」

「なに目線だよ」

なまえの息が首筋に当たる。
ぞくっと身震いすると、彼女はにやっと笑って「へぇ首弱いの」と呟いた

ふふふと笑い、そして彼女が俺から離れると上着のファスナーを下ろし袖をまくる。

そこから覗いたなまえの細い鎖骨が似合わず華奢に見えて、(そう言えば女子だった)と思い出した。






  手伝って


 


「で、何するつもり?」
「決まってんでしょ、再起不能になるまで殴り倒す」
「俺必要なくないか」
「先生の見張り役に決まってるじゃない!」
「…程々にしとけよ」


 

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