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□Promenade
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「プロム」って言うのは、高校最後の学年で開かれる舞踏会のこと。

正しくは「プロムナード」って言うんだけど

男の子がパートナーとなる女の子を誘って、okがもらえれば一緒に踊れるの

高校最後の一大イベント!


だから誘ってもらえなければ本気でへこむし、これが好みの相手じゃないと尚更へこむ。

まぁ参加自体は強制じゃないから、友達でも行かないって子もいるし良いんだけどさ…


でも憧れるでしょ?

好きな人からプロムのお誘い。
その時一緒に花飾りとかブーケを貰ったりするの。

…彼は私のこと誘ってくれるかしら?
なんて。


そんなプロムの開催まで、もう2ヶ月を切ってしまった。

早い子では半年前からプロムの約束を交わしてる子もいるのに


私が密かに想いを寄せる彼からは、まだ音沙汰もない。

…もう他の子を誘っちゃったのかな
それともプロム自体に興味がないのかしら




私は肘掛に頬杖をつきながらカフェオレの入った容器を弄ぶ。

外のベンチには私とアニの二人しか腰掛けていなかった。


「ねぇぇーーアニーーーどう思うーー?」

「何が」

「…もう2ヶ月切ったんだよ?」

「あんたが気にしてるプロムの事?」

「そーなのーーー」


アニは隣に居ながら本を読んでいる。
私は口を尖らせて、涼しげに読書を楽しむアニの顔を眺めるしかなかった。


「幼馴染としてどう思う?やっぱり私なんてアウトオブ眼中ってやつなのかな?あれ?これ死語?むしろ死語って言葉も古い?あれ?私やばい??」

「落ち着きなよ、あんだけ仲良いんだからそれは無いんじゃない」

「仲良いからこそでしょー、頑張って縮めた距離も先に進まなきゃ意味ないじゃないー」

「気が弱いからね」

「んんん… もうこれ以上我慢できないよーー周りはみんな相手が決まってってるのにー、アニだって決まってるのにー」

「あんたも誘われてんのに断るからでしょ」

「ベルさん以外やだ!」


両手で顔を覆って足をふみならす。
アニはそんな私に気もくれず、ページをめくる手を止めない

アニは隣のクラスの噂のイケメンに誘われてた。

私が隣にいる時に誘われてたから、それが余計に私を焦らせる。

ちなみにアニは必至のアプローチに仕方なくokしたって感じだった。

…あんなイケメンに誘われるなんて、他の女子なら飛び跳ねるぐらい喜ぶだろうに。


「だあぁ……もうやる気が出ない…帰りたい…帰って良いかな?」

「まだ三時限残ってるよ」

「そんなこと言ったって…ベルさんが
「僕の話?」


ばっと、伏せていた顔を上げれば
そこにはベルトルトが立っていた。

「ベっ!お、おはよう!」

「おはよう…より、こんにちわ かな」


彼は困ったように笑う。
下がった眉と、控えめに上がる口角がたまらなく可愛い!


「一人でいるなんて珍しいね」

「やぁアニ。…まあね。」

「えっと、どうしたの?迷子?」

「迷子じゃないよ」


ふふっと彼は笑ってくれた。
はああ!可愛い!!


「ちょっと、お願いがあってさ」

「お願い?」

「…私コーヒー買ってくる」

「ぅえ?!ア、アニ!」

「…ありがとう」

「貸しよ」


アニはさっさと購買の方に向かって消えてしまった。


え、待って
二人しかいないんだけど??
あれ、二人しかいないんだけど?
ちょっと?!二人しかいないんだけど???

ベルトルトとは一緒に遊んだりする仲ではあるけど、いつもはアニとかライナーが一緒だったから気持ちも楽だったんだけど

今は二人しかいない。


私はベンチに座ったまま動けずにいた。

そんな私を見て、彼はさっきまでアニが座っていた隣に腰掛ける。

私の隣。

直ぐ横には彼がいる。

やばい、変な汗出そう。
顔見れないんだけど…


「…さくらちゃん」

「はい…」

「その、お願いって言うのはね」


何だこの重苦しい雰囲気は。
恥ずかしさで顔が熱いんだけど

これなら誰かが死んだ、って言ってくれた方がよほどマシだわ!

不謹慎だけどな!

ちらりとベルトルトの顔を見ると、彼もほんのり赤くなっているように見える

控えめに彼もこちらを伺っていた。

目が合う前にそらす。

いや、見たくないとかそんなんじゃないよ!? むしろ見つめたいけど!

目が合ったらもう何も話せなくなりそうで


「…君が嫌なら、全然断ってくれて構わないんだけど」


これは…?
もしや??
期待しちゃっていいの…かな?


「僕とプロムナードに行ってくれませんか?」


彼は耳も赤くして、組んだ指を固く握りしめながら、伏し目がちに私を見た。

私は口を開けば変な声が出そうで、必死に首を縦に振るしかなかった。


待ちに待ったプロムのお誘いだ!
…なのに、どうして素敵な返事が返せないのか!!

何度も何度も想像しては、こう答えようとか、こうしたらいいかな、なんて楽しんでいたのに

実際その場面になってみれば「うん」の一言も言えないなんて…

でも、
でも最高に嬉しい!!



彼は私が何度も頷くのを見て、みるみる顔を綻ばせては、最後は泣きそうなふにゃりとした笑顔で笑ってくれた。

はい、死んだ。



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