R+R

□ゲーム
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何もない休日。
特にしたいことも、やりたいこともない暇な時間

本当ならまだやっていない宿題に手をつけなければならないのだが、どうもやる気が出ない。

…と言うか、ここから動きたくない。

私は大げさに長い溜息を吐いた。

それをテレビゲームをしながら聞いていたクレイグは、こちらに目を向けることもせず「…どうした」とだけ聞いてくる。

私はそんな返答しか返さない彼のベットで大の字になりながらまた「はぁぁぁ…」と息を吐いた

(ゲームばっかじゃなくてこっちに構えよなー)

なんて、言いはしないが
代わりに口を尖らせる。


私の答えが返ってこないのに諦めたのか、彼は構わずゲームを続行している

…薄情なやつだ。

まったく、私はそんな子に育てた覚えはないぞ!


もう…一年かな?
クレイグと付き合ってもうそんな時間が過ぎていた。

一年も経つのにまだ手を繋いでキスを済ませたぐらいだ。

…個人的には、もっと…ねぇ?

一年も一緒にいれば、 言わずとも大方相手の言いたいことは分かってくれるもんだと思っていたが…

そう思ってたのは私だけか?

そう言えば前に寄った本屋のおすすめに「気付かぬ夫と説明しない妻」ってタイトルの本があったな

なんとなく的を得ているような感じがして覚えていた。

まぁ、関係ないけどさ。


せっかくの日曜だし、クレイグの部屋でなにか暇つぶしでもと思っていたのに、こう放って置かれて一人でゲームしてるなんて

私のことをなんだと思ってるのか!

彼女か?! それとも置物か?!

…いや、ペットに思われてるかもしれない。
クレイグから、やたらとお菓子もらったりするし。



…愛されてるのか?私。

いや、そんな面倒くさい私じゃないぞ私は。


そもそも可愛い彼女が来てるってのにゲームばっかしてるクレイグが悪い。


眉根を寄せ、口をもっと尖らせる。
ついでに足もバタバタしてみた。

ゲームの邪魔してやる。



「…埃が舞うんだけど」

「暇すぎて死ぬんだけど」

「暇じゃ人は死なねぇよ」

「暇すぎて精神が死ぬ」

「なるほど」


相変わらず視線はゲームに釘付けだ。

私はごろりとうつ伏せに転がり、画面を眺める。

丁度ラスト一周にさしかかっていた。
お気に入りのレースカーだ。

これが終わってもまた新しくコースを選択するんだろうなぁ



私はばっと起き上がり、テレビ画面の前で胡座をかくクレイグの前に立ちふさがる。

おもむろにコントロールを奪い取った。

仁王立ちで彼を見下ろしていると、クレイグは驚いた顔をして、そして一気に不機嫌顔へと変わった

「何すんだよ」

「可愛い彼女が暇で死にそうって言ってるんだけど」

「暇じゃ死なねぇとも言ったぞ」

「もーーーー」

(ほんと分かってねぇなぁー!)

私はコントロールをぽいとベットに投げ捨て、くるりと向きを変えて胡座をかいた彼の上に座った。

おぉ、ジャストフィット感。

胡座で組まれた足のくぼみに私がすっぽりと収まる。

元々体格のいい彼だ。私が座ったくらいではビクりともしなかった。

首筋に彼の吐息を感じる。


「…前が見えない」

「私で我慢しては?」

「我慢も何も…」


手持ち無沙汰になったクレイグの両手はなまえのお腹に巻きつけられた。

「我慢するためにゲームしてたってとこもあるんだけど」

「?何を我慢してたの」

「俺のベットで寝そべってよぉ… 足見えてたぞ」

「んぇ?ゲームしてたのによく分かったね」


先程足をバタバタしていたからだろうか。スカートがたくし上がって太ももぐらいまでズレていた気がする。

「俺の横でバタバタしてたら嫌でも目に入るわ」

「…お見苦しいものを失礼しましたー」


(嫌でも目に入るってなんだよ!ほっそい綺麗な足じゃなくて悪かったな)

不機嫌そうな声音を感じたのか、クレイグはお腹に回した両手を少しきつく抱きしめ、首筋に顔を埋めてきた。

後ろから抱きしめられるような体制になって、首に感じる彼の息がくすぐったい。


「ちょ、くすぐったい」

「んー…」

顔を埋められ、何を喋っているのか聞き取れない

「なんて言ってるか、分かんない」

「もごもご…」

「だ、だからくすぐったいって!何言ってるか分かんないー!」


我慢できずに肩をすぼめて彼の吐息から逃げようと身をよじるが、腕ごと絡め取られた体では身動きできない。


「ちょっ、あはは!やめて!ごめんて!」

「もごもご」

「あはは!も、やー!こそばいー!」

「ふふっ」

「あ、クレイグも笑ったー!はい、終わり!終わりだって!あはは!」


身動きができなくて足だけをバタバタさせる私。
クレイグも私につられて一緒にクスクス笑っていた。





散々楽しんだ後、彼の動きが止まった。
首にグリグリと押し付けられていた彼の顔が離れて、首がすーすーする。

「これでどうだ」

「もー!」

「なまえ首弱いもんな」

「クレイグだって!弱点あるじゃん」

「俺にはねぇ」

「ほぉー?」


腕の拘束が解かれ、クレイグは後ろに手を置いて上体を反らせる。

私はやっと自由になった体で、後ろを振り返る。

そこには余裕そうなクレイグの顔があった。

「…じゃあゲームしよう。ストップって言った方が負けね」

「分かった。負けたらとうする?」

「んー…、たらふくお菓子を食べる」

「何でだよ。勝った方の言うことを聞く、でいいだろ」

「えー」

「えーってなんだ」

「…仕方ないなー、分かったよ。じゃあ先行は私ね!」

「…どうぞ?」


クレイグはニヤリと口端を上げる。
私もニンマリと笑ってみせた。


私は彼の足に収まっていた体を持ち上げ、クレイグと向き合うように体をよじり、さっきとは逆に座り直した。

クレイグのお腹を跨ぐように変えた体制に彼はピクリと反応したが、顔は相変わらずポーカーフェイスだ。


そろりそろりと近づくように体を倒し、クレイグの両手に、自分の両手を重ねるように這わせて指を絡ませる。

そうなると私の体はぴったりと彼の胸板に、お腹に合わさる。

お互い上半身の前は隙間なく合わさった

今彼の両手に私と彼の体重がかかっている。


「ふふふ…覚悟するがいい」

「…雰囲気台無し」

数センチしか離れていない距離で話す。彼の深い青い目がとても良く見える。

こんなにじっくり彼の目を見たのはいつぶりだろう。

クレイグはいつも顔を近づけると逃げるように視線を逸らすから、なかなかレアなのだ。


私は彼の喉仏に甘く噛み付く。

ピクリと反応した

そのまま首筋に舌を這わせて、筋張った首にも噛み付く。

ちろりと舐めるとクレイグは下唇を噛み出した。

何度か繰り返していると少し息が漏れる音がした。

舌を離して唇を押し当てる。
耳に恥ずかしいリップ音を立てて彼の目を見ると恥ずかしそうに視線をそらされてしまった。

「…クレイグも首弱いよねぇ」

「…はっ、どうかな」

絡めた指を解いて、クレイグの首に回す。
するすると首をなぞり、両頬を両手で包むように、親指で撫で付ける。

彼の頬が上気しているように見えた

左手だけを滑らせ、シャツの喉元に指をかけると下に引っ張る

そこから彼の鎖骨が覗いた。

左手の使える指で出っ張った骨をなぞり、唇を落とす。

「……もういいだろ。交代」

「えー、まだ…ちょっ!」


突然むくりと上体を起こすクレイグに驚いて首にしがみつくと、彼は右手で私の腰を支えて、左手で跨ったままの左太ももを掴み

よっ、と立ち上がった。

何この不恰好な抱っこは


何が起きたのかよく分からず不思議そうな顔をしている間に、ペットにどさりと落とされた。

背中にベットのスプリングの感触がする。

視線には天井と私を見下ろすクレイグ。

ギシりとベットを軋ませ、私を跨ぎ、両手を顔の横に置かれる。

「次は俺だな」

彼の目が見たことのない光を放っていた。

いつもの青い目だが、そこから感じるのは焦燥感と理性がもう少しで無くなりそうな、制止の効かなそうな危うさ。

「あ、れ… 私もしかして…やばいスイッチ押しちゃった?」

「諦めろ。ちゃんとゴムはある」

「…っ!クレイグのばか!!」

「うるせぇ」

彼は優しいキスをした。





   ゲーム



「…私の勝ち、ってことで良いのかな?」

「ばーか、ストップなんて言ってねぇだろ」

「ですよねー…」

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