R+R
□箱
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「…ベーベ保安官。」
「何でしょう」
「君はいつから解体業者になったんだい?ンけ〜い?」
例のバーを外から並んで眺めながら、上司のマッケイは目つき鋭く睨んでいる。
が、怖さはそれ程ではない。
これなら怒り狂ったリスの方がもっと怖いだろう。
入り口からせわしなく医療関係者や職員が行き来している。
怪我人を運んだり、壊れた物を運んだり
「この方が一度に捉えることができると判断したからです」
ベーベはマッケイの方を見ることなく答えた。
たまたま入ったバーが、たまたま犯罪者たち御用達のバーで、たまたま大きさも丁度いい照明があったから撃ち落とせば、たまたま解体業者さながらの光景が出来上がった。というだけである。
むしろ一斉検挙と、死人ゼロの快挙に表彰して欲しいぐらいだ。
むすっと頬を膨らましていると、上司のマッケイは「ンけ〜い…」と呟くと
「……この件はまた後で聞こう。それよりも、ンけ〜い。君の机にあった箱だけど」
そこまで聞いてベーベはやっとマッケイに目線を合わせると、乗り出すように「箱がどうしたんですか?!」と勢いよく叫んでしまった
突然のことに驚くマッケイをよそに、落ち着きの無くなったベーベは視線を忙しなく動かす
「い、いや。君の同僚のウェンディ保安官が…」
「ウェンディ!!!!」
今までの静かさが嘘のように、ベーベはマッケイを置いて職場へと走りだした!
呼び止める間も無く忽然と走り去ってしまったベーベの後ろ姿にぽかんとしながら、マッケイはただただ「ンけ〜い…」としか呟くことができなかった
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(〜〜〜!!ウェンディ!すっかり忘れてたわ!今日は彼女が非番だってことを!)
ベーベはなりふり構わず走る。
もう顔に張り付く髪も、ジャラジャラとうるさい靴も気にしていられない
(人生最大の危機よ!!!
人生!最大!!)
もしあの蓋を…開けられでもしたら!
ベーベはごくりと唾を飲み込む。
時間はとうに昼頃。
お腹の空く時間だ。
(もし!もし中を見られたら!)
ベーベは最悪の事態を想像して、涙が出そうになるのを必死にこらえながら走る
嫌な想像をかき消すように頭を振って、正気を取り戻そうとする
まだ…まだ!!
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ベーベの同僚であるウェンディは、自分のデスクに着きながら優雅にお茶を楽しんでいた。
彼女は今とても幸福な気分なのだ。
多分人生で一番と言えるような幸福。
今はその余韻でさえも楽しい…
ウェンディはニコニコとお茶をすすった。
すると、突然
「ウェンディ!!!!!!」
聞き覚えのある声が聞こえた。
ウェンディのいる部屋の扉が、派手な音を立てて全開に開かれると
そこにはボロボロのベーベがいた。
自慢の髪は砂と風でうねり、汗で顔に張り付いている。
服も薄汚れていて、急いでいたのが分かった。
ベーべは目つき鋭くウェンディを見つけると、ずかずかと彼女に歩み寄り顔をずいっと近づけ、残り数センチで止まった
ウェンディはそんなベーベにはなにも動じず、ただニコニコと微笑んでいる。
その態度から察したベーベは、わなわなと震えだした
「どうしたのベーベ?自慢の髪が酷いことになってるわよ」
「………そんなことより、私に言うことあるんじゃないウェンディ」
あんなに手入れも気も使っている髪を「そんなことより」で片付けてしまうベーベは、もっと重要なことだと言わんばかりにウェンディに返答を求める
ベーベの態度を見て、ひやりと汗が伝った
「ね、ねぇベーベ。何もそんなに怒ることないじゃない?」
「あの箱、開けたんでしょ?」
「だって、あんな無造作に置いてあったら…」
「開けたんでしょ?!」
ジリジリと近寄る彼女に、ウェンディは一二歩後退した
「えっと、その」
ウェンディはすぐ銃を構える彼女の性格を知っている。これはもはや命の危機だ
ちらっと逃げ道を確認すると
「……ご、ごめんなさい!!」
ウェンディはくるりと振り返ると、一目散に部屋から逃げ出した
「っっっ!!ウェンディ!!!!」
ベーベはブチ切れ、彼女の後を追った。
(年に一度しか買えない私のマフィンなのに!!!)
涙が出そうだった。
この荒んだ生活で、唯一の心の支え。
この町は小さな町で、他所から業者が来ることはとても珍しい
中でもベーベが惚れ込んだのが年に一度しか来ないお気に入りのお菓子屋さん…
この間ついに新作を手に入れて大事にとって置いたのに!!
年に一度しか味わえない私の命の源!
ベーベはぐずりながら銃を引き抜きむちゃくちゃに発砲しまくった。
箱
(もう!!何であんな所に置きっぱにしたのよ!)
いくら考えたところで原因は自分にあるのだから、ベーベはやるせない気持ちで一杯だった。
(せめて…せめて昨日のうちに食べておけば…!)
「〜〜! ウェンディ!!待ちなさい!」
「ごめんなさいってばー!」
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